2019年02月22日
『海辺の光景』
1959年『群像』(11月・12月号)に掲載され、同年講談社から本になった安岡章太郎の代表作『海辺の光景』(かいへんのこうけい)の主人公は、狂気して入院している母の末期が近いと父から報せを受けて高知県へ赴きます。
そして主人公の息子は、いまでいえばアルツハイマー病ではないかと思われる母親の死を看取るため、何日間か土佐の桂浜に面した精神病院で過ごすことになります。
小説には、母親は単なる気狂いのように扱われてロクな治療も施されず、鉄格子のある劣悪な環境で手荒な介護を受けているのにもかかわらず、息子はそれに何ら疑いを持たず、受け入れている様子が描かれています。
当時としては、それが当たり前の扱いだったのでしょう。実際、安岡の母親は、病の初期段階は家にいたものの異常行動が目立ってきて面倒をみられなくなり、精神病院のなかに隔離されることになったようです。
母の死の直後、安岡が病院の庭に立って海辺の光景を眺めていると、凪いで波もない水面には、無数の棒杭が立っていて、それが死んだ母親への鎮魂のしるしのように受け取られたといいます。
harutoshura at 22:32│Comments(0)│アルツハイマー考