追悼70歳の患者

2018年12月08日

死にいたらない病

100年前にクレペリンが自らの教科書で「アルツハイマー病」という病気を提示したとはいえ、以前も見たように、その臨床的解釈は「現時点では不明」とされていました。

実際、この新しい病気についての模索がはじまったばかりの当時と、現在アルツハイマー病と呼ばれている病気の概念とでは、かなりの隔たりがあるようです。

アルツハイマーの後継者の一人ともいえる娘婿のゲオルク・シュテルツは、1921~1922年に発行された「精神医学及び司法精神医学」の中で、ミュンヘンとブレスラウの病院で行った22症例をもとに「アルツハイマー病そのものが原因で死にいたることはない」と結論づけづけています。

治療によってアルツハイマー病の症状の悪化を抑えることができる場合はあるものの、確かな治療法のない不治の病という現代の考えかたとはかけ離れています。

また、ヴュルツブルクの精神神経科病院に勤務していたエルンスト・グリュンタール(1894-1972)はアルツハイマー病に関する多くの研究発表の中で、「現在のところ、少なくとも我々の手法による組織病理像だけでは、老年痴呆とアルツハイマー病を鑑別することはできない」と結論づけたほか、次のような見解も示しています。

「アルツハイマー病に対する鑑別診断に関しては組織学的な相違は殆どないと言える。臨床的にも老年痴呆のある例では、年齢的な違いを除いて、軽度および中等度のアルツハイマー病と全く区別することができない。しかし、アルツハイマー病では言語障害――特に喚語困難――がしばしば初期症状となるが、老年痴呆では重度の場合でも稀にしか出現しないという本質的な相違はあるように思える」

いまからみると、初老期だと「アルツハイマー病」で、高齢になってからだと「老年痴呆」とやや差別感のある表現でとらえられていたようにも感じられてきます。


harutoshura at 16:10│Comments(0)アルツハイマー考 

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