剖検精神盲

2018年11月03日

ピンクの紙の記録

亡くなったアウグステのカルテが届いた後、アルツハイマーは自分の記憶にある入院当時の様子や病歴などについて、ピンク色の紙に手書きで書き記しています=写真。こうした記録が、後の「アルツハイマー病」の発見へと結びついていくことになるのです。

名前:アウグステ・D
 
職業:鉄道書記官の妻

家族歴:母は更年期よりてんかん

アルツ

既往歴、入院時現症および経過:常に健康、幸福な夫婦関係、娘一人、流産なし。半年前に発症。嫉妬深い。記憶力の低下。特に料理中の忘れっぽさ。部屋の中を意味なくせわしく動き回る。知人に対して恐怖心を抱く。家中のありとあらゆる物をどこかに隠し、後で見つけることができない。入院時は途方に暮れた様子であった。失見当識、異常な抵抗。

ホールで困り果てたアウグステ・Dは他の患者の顔に水をかけた。その理由を聞くと「片づけたかった」と答えた。突然思いついてつじつまの合わないことを言い、保続(前に行なった反応を場面や状況が変わっても持続すること)を呈する。書き取りをすると文字や綴りを省いてしまう。明らかに質問の意味を理解できないようだが、時には、内容的に正しい答えを出したりもする。幻覚を有するように見える。

時折、作業せん妄に陥り、布団を持って歩き回り片付けようとする。また、医師が性的暴力を加えようとしたかのような当てこすりをし、憤慨して診察を拒み、医師に出て行くよう指示したりもする。意味のない言い回しを繰り返して言う。何に対しても激しく抵抗する。最後の年には、ベッドでうずくまり、拒絶し、何を言っているのか全く分からない。四年間の闘病後、褥瘡が原因で亡くなる。

ここで褥瘡(じょくそう)というのは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることによって、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと。いわゆる「床ずれ」です。


harutoshura at 18:25│Comments(0)アルツハイマー考 

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