南西ドイツ精神科医学会確認ができたこと

2018年11月08日

特異な臨床像

1906年11月3日午後、いよいよアルツハイマーによる歴史的な学会発表がはじまります。それがどのようなものであったのか、コンラート&ウルリケ・マウラー『アルツハイマー』をもとに、これから少しずつ、詳しく見ていきます。

学会といえば、いまではパワーポイントを使ったグラフィカルな発表が当たり前ですが、100年以上前のこの発表も、スライドを用いて視覚的な構成に気を配ったものだったそうです。

アルツハイマーは、フランクフルト市立精神病院で診察したアウグステについて「既知の疾患に入れがたい特異な臨床像を呈しました」として、次のように説明をはじめました。

「症例は51歳女性です。夫に対する病的な嫉妬心で発病。時間を経ずして記憶力低下が出現し、自分のアパートの勝手が分からなくなり、物をあちこち引きずり回したり、身を隠したりしました。時に誰かが自分を殺そうとしていると信じ込み、奇声を発しました。院内では、全く途方にくれているような振舞いが特徴的でした。

失見当識が著名で、ときどき全てが理解不能となり、勝手が分からないというような態度を示しました。やがて彼女は医師を客人のように歓迎し、まだ仕事が終わっていないと言って誤りますが、すぐに大声で叫び、彼が彼女を切り裂こうとしているとか、女性の名誉を傷つけると非難し、決まり切ったように頑なに彼を拒否しました。

一時的にせん妄状態になり、シーツをあちこち引きずりながら夫や娘の名を呼びますが、これは幻聴のためかと思われます。彼女はしばしば、ゾッとするような声で長時間にわたって叫びました。また検査の最中に、状況を認識できないときなど、例外なしに大声を出して叫びました」。

この中で「失見当識」というのは、自分の置かれている状況を認識すること(見当識)が正常に行われない状態のこと。自分が置かれている時や場所、周囲の人間関係などを正しく認識しているかどうかで判断されます。見当識は、判断力、思考力、記憶力などと密接な関係があって、意識障害や認知症の際に障害がでます。

「せん妄」は、幻想的な世界に巻き込まれ、幻覚や錯覚に左右される意識変容のかたち。外界は夢のように変容し、周囲の人や物は鬼や怪物などに錯覚され、恐怖や楽しい場面の情景的な幻覚がつぎつぎに不連続的に現れます。小人がたくさん出てくる小人島幻覚や、うじ虫のような小動物がうごめきながら体にいっぱいたかるような幻覚を伴うこともあります。


harutoshura at 20:22│Comments(0)アルツハイマー考 

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