2018年05月
2018年05月31日
居ていいんだ
「だけど、おばあさん、ここにいていいの?」。今晩8時40分ごろ、いつもの電話がかかって来ました。声は落ち着いています。
「あしたウチへ帰るのに、カギもないし、お金もないし?」。
「ウチへ帰るったって、もう、布団も寝巻も何もないよ。冷蔵庫も空っぽだ」
「ええっ。じゃあ、おばあさん、ここにずっといるの?」
「そこなら、三食ごはん作ってもらえるし、何にも心配することないでしょ」
「そうだけど。ほんとに、ここにいてもいいんだね」
「部屋代も食事代も、ちゃんと払ってるんだから心配ない。もう9年以上いる人も居るんだよ」
「じゃ、ここに居ていいんだ。明日帰らなくても……」
といったことを話しているあいだに、眠くなってきたようで、いつものように「おやすみ」を交わしました。
2018年05月30日
5強の地震
このあいだ(25日午後9時13分)、長野県北部を震源地とする最大震度5強(M5.2、深さ6キロ)の地震がありました。
幸い人的被害は確認されていないようですが、これまでの県の調べなどで、地震で水田に穴ができて水が抜けてしまったり、道路の亀裂や落石、墓石が倒れるといった被害がかなりあったことがわかったそうです。
地震の直後、ねえちゃに「地震があったけど、大丈夫だった?」と聞いてみましたが、「えっ、ぜんぜん知らなかった!」という返事でした。
2011年の「3.11」以来、長野でも体に感じる地震がときおり起きています。けれど、いつ連絡しても「えっ、地震あったの?」が、ねえちゃの返事です。
体感のほうも鈍くなってきているのか、それとも、その瞬間「地震」と感じてもすぐに忘れてしまうのか。定かではありません。
2018年05月29日
2018年05月28日
リスク評価スコア
高齢者の認知症の発症しやすさが分かる「認知症のリスク評価スコア」(参考指標)を、京都大の研究者らのチームが開発したそうです。
「バスや電車で1人で外出しているか」「預貯金の出し入れをしていますか」など生活にかかわる13項目の質問や検診の状況、年齢などの基礎情報に答えることで、自己採点できるようになっているそうです。
合計スコアと約4年以内の発症割合を調べると、10点の人が1%だったのに対し、20点4%、30点13%、40点32%、50点50%の確率で発症との結果が確認できたそうです。
まだまだ分からないことだらけの認知症だけに、こうした信頼できる指標が示されていくことの意義は大きいな、と思います。
2018年05月27日
新貫主
セクハラなどの問題で、善光寺のトップ、小松玄澄貫主がこの3月、天台宗から解任されました。これを受けて、新しい貫主が任命辞令を受けたというニュースが流れていました。
新しい貫主となった瀧口宥誠さん(84)というかたが、大津市の滋賀院門跡で大勧進住職(貫主)の親授式に臨んで、天台宗の座主から任命辞令を受け取ったのだそうです。
そういえば、ねえちゃのグループホームでは、6月に、新しい貫主になった善光寺に出かける行事を予定しているようです。
瀧口・新貫主は、「大勧進の信仰の回復、発展のために少しでも一助になれば」と述べたとか。ねえちゃを含めて長野市民の誇りである善光寺。新しいトップのもと、少しでもはやく信用が回復されるといいですね。
2018年05月26日
2018年05月25日
2018年05月24日
2018年05月23日
危険ドライバー
私は車を持っていないので、青木島のねえちゃの家に泊まってから、歩き、あるいは途中でバスを使ってグループホームを訪ねています。
バスといっても1時間に2本とか、便が少ないうえ、バス停まで歩く距離が相当にあります。
長い散歩だと思ってがんばって歩けばいいだけなのですが、最近困るのは、横断歩道を渡っていたり信号どおりに歩いていても、車が突っ込んできて轢かれそうになることがしばしば起こることです。
大けがはありませんが、足の軽い打撲や荷物を潰されたりといったこともありました。相手の運転手さんは、たいてい高齢なかたです。
警察庁が2017年3月、認知機能検査で早期発見を進めたところ、「今後、認知症の恐れ」のあるドライバーが約7000人に上ることが判明したとか。
地下鉄が張り巡らされた東京と違って地方では車が欠かせないのは分かりますが、道路は車だけのものではなく、スタスタ歩いている私のような歩行者もいること、どうかお忘れなく。
2018年05月22日
無罪を勝ち取る会
いまから5年前、長野県の特別養護老人ホーム「あずみの里」で、85歳の女性利用者がおやつのドーナツを喉に詰まらせて窒息し、1カ月後に亡くなるという惨事がありました。
その際に、注意義務を怠ったとして、間食の配膳・食事介助支援をしていた松本市の准看護師(58)が、業務上過失致死で起訴されました。
老人介護施設の介護従事者が、業務上過失致死で刑事訴追されることは聞いたことがありません。被告となった准看護師の無罪を求めて支援する運動の輪が広がりを見せているそうです。
最近開かれた「無罪を勝ち取る会」には、介護、医療関係者ら約420人が参加。署名も計約35万9千筆に上っているそうです。
老人介護施設の介護従事者が、業務上過失致死で刑事訴追されることは聞いたことがありません。被告となった准看護師の無罪を求めて支援する運動の輪が広がりを見せているそうです。
最近開かれた「無罪を勝ち取る会」には、介護、医療関係者ら約420人が参加。署名も計約35万9千筆に上っているそうです。
この事故の真相について、私はちゃんと取材しているわけではないので何も言えませんが、急増する認知症や高齢化の問題に、いまの法律や検察がどこまでついて行っているのだろうか、という疑問は、常々感じています。
2018年05月21日
2018年05月20日
2018年05月19日
エピソード記憶
たとえば「2カ月前にグループホームで住むようになった」というように、その人が経験した「ある時に、何をした」というタイプの記憶を、エピソード記憶といいます。
「いつ」という時間の認知や記憶は人の脳はあまり得意ではなくて、アルツハイマー病になると場所の認知や記憶とともに困難になり、最も早くやられやすいと考えられているそうです。
同じエピソード記憶でも、アルツハイマー病の初期の段階では、一度覚えた昔のことは比較的よく保たれていて思い出せます。
ところが、比較的最近の、新しいエピソード記憶ができなくなるので、時の移り変わりや場所の移動に関することが分からなくなり、ねえちゃのように「きょうは何日」「ここはどこ」と繰り返すようになってしまうようです。
エピソード記憶の障害は、次第に、ほかの判断や思考の内容にも影響を及ぼすようになっていくそうです。周りはそういうことについて、覚悟を持って見守っていくしかありません。
2018年05月18日
2カ月
「おばあさん、どこに居るの?」と、きょうの午後8時40分ごろ、ねえちゃから電話がありました。
「長野市の安茂里のグループホームでしょう。ちょうど、2カ月前からずっとそこに住んでるんだよ」
「え~。もう、そんなにいるの。おばあさん、どこから来たの?」
「え~ッ。どこに住んでたか、忘れちゃったの?」
「どこだったっけ、わかんない」
「一生懸命働いて建てた青木島の家じゃない!」
「青木島ってどこだったっけ。長野にあるの?」
「長野市の青木島。そこから同じ市内の安茂里へ来て、暮らしてるんでしょ」
「安茂里っていうと、鬼無里へ行く途中にあるところだったよね。青木島ってどこにあるんだっけ?」
2カ月たったいま、30年間住んできて自分の家の記憶も薄れつつあるようです。
2018年05月17日
2018年05月16日
身体拘束禁止のための指針
ねえちゃのグループホームから送られてきた資料の中に「身体拘束禁止のための指針」というのがありました。
「当グループホームにおいては、原則として身体拘束は行いません」としたうえで、「緊急やむを得ず身体拘束を行う場合は、切迫性・非代替性・一時性の3条件の全てを満たした場合のみ、本人・家族への説明・確認を得て行います」とされています。
切迫性というのは、入居者本人または他の入居者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。
非代替性は、身体拘束その他の行動制限を行う以外に、代替する介護方法がないこと。一時性は、身体拘束その他の行動制限が、一時的なものであること、だそうです。
これまで真面目を絵に描いたようなねえちゃでしたが、認知症が進むにつれて、身体拘束が必要とまでは行かないまでも、駄々をこねて身体を強張らせ、頑として言うことを聞かなくなることは何度も経験しています。
これから病気がさらに悪化していけば、「緊急やむを得ず」ということが全くないとはいえなくなるかもしれないな、という感触がどこかにあります。
2018年05月15日
「え~。うそ」
きのうの夜、自分の部屋に戻ったねえちゃからまた「ウチへ帰らなくっちゃ」と、やや悲壮な声で電話がかかって来ました。
「なに言ってるの。おばあさんの家は、そこのグループホームでしょ」
「え~。だって、着替えるものも無いし!」
「無いこと無いでしょ。着られそうなものみんな持ってってあるし、家へ帰ったって何もないよ」
「え~。うそ、無いよ。そんなの持たずにきょう来たんだから」
「何いってるの。もう、そこに2カ月近く住んでいるんだよ」
「え~。うそ、おばあさん、もうそんなに居るの? うそ」
「職員の人に聞いてみればいいじゃない。それから、日記を読み直してみな!」
「え~。うそ……」。どうにも納得できない、というふうのままでしたが、らちが明かないので、「おやすみ~」とやや強引に電話を切りました。
2018年05月14日
2018年05月13日
母の日
母の日だからと、午後7時40分ごろ、ねえちゃの携帯に電話をすると、ちょうど夕食後のおしゃべりも終えて、部屋に帰って来たところでした。
「元気でやってる?」「元気だけど、あれ、携帯電話がどっかへ行っちゃった!」
「いま、かけてるのが携帯じゃないの」「ああ、そうか……」
「今晩は何を食べたの?」「忘れちまった」
「何か困ったことない?」「何にもない。頭がバカなことだけ」
「バカんなったから施設へ入ったんだから、そりゃしょうがないよな。まあ、ゆっくり寝なよ」
「おやすみ~」。落ち着いた口調だったので、これで寝たかなと思っていたら、10分後くらいに、ねえちゃから電話がかかって来ました。
「布団の中で、ふっと考えたんだけど、おばあさんここにいていいんだろか?」。今度は、少し不安げな口調に変っています。
「ちゃんとお金払って置いてもらってるんだから大丈夫。心配せずに寝な!」「じゃ、寝る。おやすみ」
2018年05月12日
アドニ
ねえちゃのアルツハイマー病の兆候が見られるようになったのは、東日本大震災があった7年前の2011年、連れ合いが亡くなった75歳くらいからのことです。
泥棒が入って金庫の鍵が替えられたと大騒ぎしたり、いっしょに旅行した親戚から「おかしい」と指摘されたりするようになりました。
最近、J―ADNI(アドニ)と呼ばれる大掛かりな調査で、60歳以上の健常者の約2割に、アルツハイマー病の発症と関わりが深いアミロイドβというたんぱく質が脳内に蓄積し始めていることが分かったそうです。
アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβが蓄積し、神経細胞が徐々に死滅することが原因と考えられていて、蓄積が始まってから、物忘れなどの症状が出るまでに15年ほどかかるのだとか。
とすると、ねえちゃの頭のアミロイドβの蓄積が始まったのは60歳を過ぎたあたり。仕事を辞めて、アルコール依存症の夫の世話に苦労しはじめたころ、ということになります。
2018年05月11日
楽しく過ごしたい
この間グループホームからいただいた、5月から7月までの介護サービス計画には、次のようにあります。
生活上解決すべき課題は「できる事はしながら、不安なく楽しく過ごしたい」。長期目標は「新しい環境の中で、安心して生活している」。短期目標は「皆と関わりながらできる事に参加する」。
サービス内容としては①不安や心配事がある時は傾聴し、安心して過ごせる様支援する②体操・歩行・レク・家事・作業などできる事には無理なく参加を促す③日課でしていた事を続けてもらう(10時血圧手帳をつける、夕食後日記をつける)。
「困っていることはないです。今のまま皆と一緒にご飯を食べたりお話をして、楽しく過ごしたい」というのがねえちゃの意向。家族としては、穏やかに暮らしていくことを願うばかりです。
2018年05月10日
食後
きょうの午後1時半ごろ、ねえちゃの携帯から電話がかかって来ました。「お前、どこに居るの?」というのです。
きのうグループホームの部屋を訪ねた際に書かせた日記を読み返して、「え、来たんだ。いまどこに居るの」とびっくりしたようです。
ねえちゃが電話をかけて来るのは、食事の後の寝る前、とパターンが決まっています。
食事のときまでは、施設の人たちと楽しく過ごしているので、他のことを気にかける余地はありません。
夜の睡眠や昼寝のため部屋に戻って一人になったとき、日記などを眺めて「あ、こんなことあったんだ」と一から思い起こして、あわてて聞いてくるのです。
でも、お腹もいっぱいになっているので、じきに眠り込んでしまいます。そして、電話をしたことも、「えっ」と思ったことも、みんな忘れてしまいます。
2018年05月09日
衣装持ち
きょうは朝、ねえちゃの家の冷蔵庫に残っていた食べ物などをまとめて、所定の「可燃ごみ」に出しました。これで「生もの」系の処分はだいたい済みました。
午後には、家のタンスなどにあった、これからのシーズンに着れそうな衣服を持ってグループホームへ出かけました。
ねえちゃはその服を見て驚き、「え、これ買ってきてくれたの?」と言います。自分の持っていて、着てきた服のこと、ほとんど覚えていないようです。
逆に見れば、ねえちゃは自分でも忘れてしまうほどの、けっこうな衣装持ちである、ということもできます。
「困ったこととか、嫌なことはない?」と聞くと、いつものように「ない。ただバカなだけ」と答えて笑いました。心身ともに安定しているようで、ホッとしました。
2018年05月08日
2018年05月07日
血圧計がない
きょうの夜8時ごろ、ねえちゃから、やや眠そうで、何か困惑した感じの低い声で、電話がかかって来ました。
「血圧計と血圧手帳、ウチに置いて来ちゃったのだろか?。計ってない。困った。それに、薬も無い。お医者さんのところへも行ってない。どうしたらいいんだろ」
グループホームで、毎日、薬を飲ませてもらっていることも、定期的にちゃんと血圧を計ってもらっていることも、突然、頭から抜け落ちてしまったようです。
3月に施設へ入ってから、血圧測定も、薬も、あたりまえのように、ずっとやってもらっているのに、何かの拍子に突然「あれ、どうだったんだろう」と気になって仕方なくなったのです。
でも、詳しく説明してやると「そうなんだ。そんなにバカになっちゃったんだ」と、それなりに納得して落ち着いた様子で「おやすみ」と床につきました。
2018年05月06日
鍵
きょうの夜、久しぶりにねえちゃから電話がありました。「聞きたいことあって電話した」というのですが、「何を聞きたかったのかわかんなくなっちゃった」といいます。
「連休はどうだった?」と聞くと、「誰がきたのか、何がなんだか、みんなわすれちまった。だけど、墓参りに行ったような気はしている」といいます。
30分くらいしてから、もう一度、電話がありました。
「鍵とか、大事なもの、どこにあるんだろ?」といいます。これが、どうも、さっき聞きたいことだったようです。
本人は忘れてしまっても、連休中に自宅へ行った印象が頭のどこかに微かに残っていて、鍵など家のことが気になったのかもしれません。
「空家状態になったので、特に大切なものはこっちで預かっているから心配するな」というと、ねえちゃは「じゃあ、何も心配しないでいいんだね」といつものように話して眠りにつきました。