Aokijima

認知症と生きる「ねえちゃ」の近況と、アルツハイマー病に関する記録です

2017年04月

博士の愛した数式

発売2ヶ月で100万部を超えるベストセラーになった小川洋子の『博士の愛した数式』の主人公は、交通事故で新しい記憶が80分しか持続しないようになってしまった、数学の「博士」でした。

「博士」は大切なことを記したメモ用紙を体中につけていて、書斎のクッキー缶の中に、野球カードや思い出の写真などをしまっていました。

ねえちゃの場合も、「博士」と同じように、いつも一から話をやり直さなければなりません。メモをすることさえすぐ忘れてしまうので、メモ用紙をもあまり役に立ちません。

最近は必ず、毎日同じように、「何かきょうは、バカになっちゃって」「きょうは何か、お風呂へ入る気にならなくて」と口にします。

「きょうは」ではなくて、このところ「いつでも」そうなんですが、ねえちゃはいつも「きょうは」だと思っています。

玄関で話していたことを、居間へ来ると忘れちゃうので、「80分」も持続したらいいのになあ、と思ってしまいます。

『博士の愛した数式』をはじめて読んだときには、ユニークなフィクションだな、と思いましたが、最近はすっかりリアルな世界に映っています。

飯田大火

「飯田大火」から、70年を迎えたという特集番組をやっていました。「あのとき街全体が焼け野原になった光景は、いまでも目に焼き付いている」とねえちゃはいいます。

飯田大火は、1947(昭和22)年4月20日午前11時48分ごろ発生。おりからの強風にあおられて延焼を重ね、約10時間ほど燃え続けました。飯田中心街の約7割、3742棟、48万平米を焼失。死者行方不明者3人、17,778人が罹災しました。

城下町として発展してきた飯田は京都の町割に倣って作られ、その通路幅は狭く、木造の建物が密集していました。それから、一斉に消火栓を開いたため水圧が低下し、警防団(消防団)による初期消火の失敗につながったことなどが大火につながった原因と考えられています。

この大火を教訓に、延焼を防げるように防火帯道路の緑地帯に、地元中学生によってりんごの木が植えられ、有名な「飯田りんご並木」として復興のシンボルとなりました。

ねえちゃの出身は飯田市近郊の下條村で、高校のときには飯田で暮らしていた経験もあります。大火のときはまだ小学生で下條にいたはずですが、なぜか飯田にいた高校生のときに間近で体験したような気がしているそうです。

妄想

「けさ、ねえさまから電話がかかってきて、むかしの近所の話をいろいろした」と、夕食のとき、ねえちゃがいいます。

着信記録を見ると、4月にかかってきたのは、息子からのほかは新聞店からかかって来た1件があるだけです。

最近はかかってきても、その用件どころか、電話があったこと自体も頭の中に入らずに消えてしまうので、近しい人たちも気を遣って電話をひかえてくれているようなところもあります。

実際には電話がないのに、「**さんから電話がかかってきて、**した」といった話をよくするようになりました。一種の妄想なのでしょう。

姉からの電話というのも、どうも、ずいぶん前にねえちゃのほうから電話したときの話が時間と場をとび越えて「きょうの出来事」になってしまったようです。

食欲だけは旺盛ですが、やりたいことは何もないといいます。84歳でデンマークへ渡ったというテレビのドキュメントを見ながら、「どうせ妄想するのなら、こういった大きな夢物語にしたら」と、つい口にしました。

買いもの

「きょうは、ししゃもを焼いて、ゆでだこ、それに冷凍まぐろの切り落としもあるから、夕食はなんにもしないで大丈夫」と昼過ぎ、ねえちゃに念を押しておきました。

ところが、夕方、何かを思いついたかのように布団から起き上がって、徘徊に出かけました。おまけに、スーパーに寄って5300円余りの食料品を買い込んで来ました。

自分のお金で欲しいものを買って来る、のではありますが、いつものように大半は、冷蔵庫の中にすでにあるものです。

たこは、すでに冷蔵庫の中に三パックあるのに、また買って来ました。バナナも二房あるのに、また二房。冷凍室には、まぐろの切り落としが三袋あるのに、また買って来た、というありさま。

家にないから買って来るのではなく、何が何だかぜんぜん状況判断ができずに、なんとなく買ってきてしまうのです。

食べたいものがあるから買いに行くんだったらいいけれど、家にあるものを次々新たに買いこんでくるだけなので、冷蔵庫に入りきらなくなって捨てるものが増えていくだけです。

いつものように「そんなに無駄づかいばかりしていると、施設に入るお金なんて残らなくなるよ」と諭しても、「はい、はい」とうなずくだけ。ポカンとしています。

山菜採り

きょうの夜、ねえちゃの家へどなたかが訪ねて来られました。

「どなた」と、ねえちゃに聞くと、「デイサービスでいっしょのの人」といいます。

「用件は?」と聞くと、「ふきのとうをいっしょに採りにいかないかって。あした何か予定があったけ」と、いいます。

「名前は何ていうひと?」と聞くと、「わからない」。「男の人なの、女の人なの?」と聞くと、「男の人」。

いろいろ聞いていくと、どうも、この間から再三、ふきのとうなどを届けてくれている男性のようです。

「どこへ採りに行くの?」。「どっか知らないけど、その辺」。

「ちょっと待って! 一人でも徘徊して帰って来れなくなることがあるのに、名前も忘れた、どこの家かも知らない人と山菜採りに行って、帰れなくなったらどうするの!」

というわけで、せっかくのおさそいでしたが、お断りすることにしました。

松井潤
matsuijun@jg8.so-net.ne.jp
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