発売2ヶ月で100万部を超えるベストセラーになった小川洋子の『博士の愛した数式』の主人公は、交通事故で新しい記憶が80分しか持続しないようになってしまった、数学の「博士」でした。

「博士」は大切なことを記したメモ用紙を体中につけていて、書斎のクッキー缶の中に、野球カードや思い出の写真などをしまっていました。

ねえちゃの場合も、「博士」と同じように、いつも一から話をやり直さなければなりません。メモをすることさえすぐ忘れてしまうので、メモ用紙をもあまり役に立ちません。

最近は必ず、毎日同じように、「何かきょうは、バカになっちゃって」「きょうは何か、お風呂へ入る気にならなくて」と口にします。

「きょうは」ではなくて、このところ「いつでも」そうなんですが、ねえちゃはいつも「きょうは」だと思っています。

玄関で話していたことを、居間へ来ると忘れちゃうので、「80分」も持続したらいいのになあ、と思ってしまいます。

『博士の愛した数式』をはじめて読んだときには、ユニークなフィクションだな、と思いましたが、最近はすっかりリアルな世界に映っています。