Aokijima

認知症と生きる「ねえちゃ」の近況と、アルツハイマー病に関する記録です

「ねえちゃ」は、10年くらい前までは一日三食のおかずはもちろん、正月のお節料理も、ほとんどすべてを手作りで調理していました。豆や芋をやわらかく煮込むのにも、いろいろと工夫を凝らしていたようでした。

連れ合いは「ねえちゃ」の手料理でないと食べない、というような人でした。会社の付き合い以外ではほとんど外食をせず、泊まりが必要な出張でも、妻の夕食を食べるために無理をして日帰りで帰ってくることもよくありました。

そんな夫も、5年前に亡くなりました。作ってあげる人がいなくなったこともあって、「ねえちゃ」は最近、料理を作るのがすっかり面倒になってしまったようです。

スーパーで買ってきた惣菜や刺身など「できあいのもの」で簡単に食事を取り、料理らしい料理を作ることほとんどありません。

たまに魚を焼いてくれるときは、私が嫌いな「鮭」と決まっています。理由をたずねると、「鮭はお正月に食べる特別なお魚。それなりにもてなしてやらなきゃと思って、高級な鮭にしてる」のだといいます。

「それは有り難いけど、安いのでいいから、たまには他のにしない?」というと、そのときは「わかった」と了解してしてくれます。が、いつものようにすぐに忘れてしまって、次の焼き魚のときもまた、「鮭」が出てきます。

あと1週間

「ねえちゃ」が当面の大目標にしているる親戚の結婚式が、いよいよ1週間後に近づいてきました。

「ご祝儀」や「贐」の袋も、金額相応のを用意して、名前や住所なども筆ペンで書き入れました。忘れないようにと、お金もきちんと数えて中へ入れました。

高速バスも、だいたいの時間のをとりあえず予約しました。あとは「ねえちゃ」自身のしたくだけです。

来週は美容院へ行かなければいけませんし、着ていく服も決めなけばなりません。

散歩の途中で近所の洋服店へ寄ってみたそうですが、コレといったのが見つからなったようで「あるのを着てけばいいか」。

でも、いざ、近づいてくるとやっぱり自信がなくなってきたようで、「いけるかなあ。断るべきかな」といつものセリフが頻繁に出るようになりました。

「みんなが待ってて、いろいろ準備してくれているんだから、今度は行かないわけにはいかないよ。死んでも行ってやる、くらいの覚悟で。ガンバレ!」。

 

『親鸞の教え』

「ねえちゃ」が信仰している宗教やお寺は特にありません。子どものころは、実家が代々お世話になっていて、よく遊びにも行ったという、村の臨済宗妙心寺派のお寺にいちばん親しみを感じたといいます。

いまの家に引っ越してきて仏壇を買いました。けれど、ただ形だけ仏壇をそろえたというだけで、どこかの和尚さんにお経をあげに来ていただいた、といったことは全くありませんでした。

5年前に連れ合いが亡くなったとき、「夫が親鸞に興味をもっていたらしい」という、なんとなくの理由で、浄土真宗の教えにしたがった仏壇に整えていただきました。

でも、親鸞聖人七百五十回忌関連の催しや定期的な講話などに誘っていただいても、「ねえちゃ」は決して行こうとはしません。

浄土真宗とは関係ありませんが、夫が亡くなった直後に「四国八十八か所巡りをしたい」と言い出したので、ガイドブックなどをたくさんおくったのですが、興味はすぐに失せて「四国なんて遠くて行けない」と、けっきょく行かずじまいでした。

「じゃあ、人生の最期のとき、どこにお願いするの?」と聞くと、「そんなの、どこでもいいから適当にやってよ」とこたえます。

「そんなの、じゃあなくて大事なこと。少しでも親しみのある宗派やお寺にお願いするのがスジ。通販サービスで、どの宗派でもいいから空いている和尚さんに頼むなんて、寂しいでしょ」。

というようなわけで、とりあえず、連れ合いが「興味をもっていたらしい」という親鸞について、ちょっとでもいいから勉強してみたらと、きのう『図説 あらすじでわかる! 親鸞の教え』という、やさしく書かれた解説書を「ねえちゃ」に提供しました。

毎日、1ページでも1行でも読んでくれれば、頭の体操にも、「やることがない」という悩みの軽減にもつながるのでは、という願いを込めています。が、残念ながら、いつものように、あまり読む気になってはいないようです。

菜花

「ねえちゃ」の家の近くには、畑やリンゴ園がたくさんあります。夫が亡くなった5年前の少し前まで、そんな農家から畑を借りて2人で家庭菜園をやっていました。

長ネギ、ニンジン、じゃがいもなど、「なんでもかんでもいろんな野菜を作っていた」そうです。

そんな家庭菜園で穫れたのか、きのう、親しくしていただいている近所の奥さんから「菜花(なばな)」をたくさんいただきました。

詳しくは知りませんが、「菜花」というのは「菜の花」と同類のアブラナ科の野菜で、若くてやわらかい花茎や葉、つぼみを食用にします。

菜の花というと、春、一面に黄色い花を咲かせる花畑を思い出しますが、菜の花はアブラナ科の黄色い花の総称で、正式な植物名ではないようです。

その仲間には、普通に「菜の花」と呼んでいる観賞用のほか、菜種油用のナタネ、野菜として食用にする菜花などがあります。

頂戴した菜花。さっそく茹でて、花かつおをたっぷりかけていただきました。

滑るような舌触りと確かな歯ごたえ、何ともいえない若干のほろ苦さも加わって、最高の味わいでした。ごちそうさま。

クンシラン

ねえちゃは、植物が大好きです。小さな庭ですが、以前はいろんな花を植えていました。

10年少し前まで、押し花教室に通っていました。いまでも、そのとき作ったなかなか見事な作品が、変色することもなく額に入れて飾ってあります。

きのう、いつも「宅食」を届けてくれる女性が、玄関に入るなり「ベランダの花、きれいに咲きましたね。なんていう花なの?」と尋ねていました。

「クンシラン(君子蘭)だと思うんだけど。今年もだいぶ暖かくなって」とこたえながら、「ねえちゃ」も春の訪れを実感したようでした。

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クンシランは、ランではなくてヒガンバナ科の園芸植物。南アフリカ原産で、肉厚の葉とオレンジ色の花が魅力的です。花言葉は「情け深い、誠実」。

庭に面した陽がよく当たるベランダに置かれた鉢植えのクンシランを、いつごろから育てているのか。「ねえちゃ」の記憶からはすっかり消えてしまっていました。

でも、寒さに弱く、越冬温度は5℃以上が必要といわれるだけに、今年も無事冬を越えて花が咲くのを見ることができて、ほっとしたみたいです。

暖かくなって土の表面が乾いてきたら、水をたっぷり与えたり、肥料や植え替えのことも考える必要が出てきそうです。そういた「手入れ」、忘れずに続けられればいいな、と思います。

賞味期限

「ねえちゃ」は、食べ物の消費期限、賞味期限をあまり気にしません。

冷蔵庫の中には、とっくに賞味期限が切れた納豆やおやき、消費期限が切れたハム、マヨネーズなどなど、いっぱい入っています。

円柱のアルミケースに入った七味唐辛子にしても、辛みも風味もほとんど消えて、ソバにかけてもまるでただの粉をかけているような感じ。

さすがの私もこれではたまらないと、袋入りの七味を買ってきて入れ替えました。

たとえば納豆にしても「もともと腐ってるんだから、ちょっとくらい過ぎたって大丈夫」というのが「ねえちゃ」の理屈です。

「それは理屈になってないんじゃないの」と言っても、持論は変えません。

冷蔵庫も普及していないむかし、物の少ない山ばかりを転々としいた「ねえちゃ」。

お店でカビの生えたパンが売られていることなどザラで、買って帰ってカビを落として食べていたことも日常的でした。

いまでは、そんなのはお店としても許されないことでしょうが、「ねえちゃ」の若いころは、まだまだ物の無い時代、食品衛生の意識が十分ではありませんでした。そんな時代をがんばって生きて来たのです。

最近はそういうのに加えて、物忘れがひどくなったため、何を買ってきたのか、冷蔵庫に何が入っているかといたことも、すぐに記憶から消えてしまいます。だから、賞味期限どころではないのです。

 

片づけ忘れ

「ねえちゃ」は、いつもコマメに「片づけ」をします。夕食も「まだ食べ終わっていないのに」と思えるうちから片づけにかかります。

夜遅くまでテーブルで食べたり飲んだりしていると、イライラしてくることもあるみたいです。

昼、パスタや日本そばの料理のため戸棚から取り出して、私がこのごろ毎日のように使うようになった大鍋やザル、専用の皿なども、使い終わったのを見つけるとすぐに戸棚の奥のほうにしまってしまいます。

それだけならいいのですが、近ごろの「ねえちゃ」は、「しまう」ことは念頭におかれていても、どこにしまったか忘れてしまうことが頻繁になってきました。

私が使っている鍋なども、別に意地悪をしているのではないのでしょうが、大抵は戸棚の奥の奥のほうにしまい忘れられてしまいます。だから私の料理は、まずは戸棚の鍋探しから始めなくてはなりません。

「毎日使う鍋くらいキッチンの上に置いておいてくれてもいいのに」と文句を言うと、その時は納得するのですが、すぐにそれも忘れてしまって戸棚の奥の奥へとまたまたしまってしまいます。

きのう、近づいてきた親せきの結婚式のためのご祝儀と贐用の袋を買って、テーブルに置いておきました。すると「ねえちゃ」はこれもまた、どこかへしまってしまって、いつものようにしまった場所を忘れてしまいました。

「どこへ行ったのだろう」。片づけ忘れ、を探し出すのに、また、また一苦労の日曜日でした。

こうやまき風呂

「ねえちゃ」は、お風呂が大好きです。よほどのことがない限り、寝る前に毎日焚いて入っています。

連れ合いが仕事で信州の山を転々としていた関係で、以前は、木曾の高野槇(こうやまき)で作った木風呂が家にありました。

日本の木の中でも、特に品質のいい木として定評のある「木曾五木」と呼ばれる樹木があります。

木曾檜(きそひのき)、椹(さわら)、翌檜(あすなろ)、黒檜(ねずこ)、そして、高野槇です。

これら木曾五木の中でも高野槇は、水や湿気に耐える力が最高で、高級な風呂桶や水桶、流し場船、橋梁などに最も適しているとされているそうです。

「木の風呂というと“ひのき”が有名だけれど、それより上なのが高野槇。天皇陛下(昭和天皇)も高野槇の風呂に入っているんだ」と、本当かウソかは知りませんが、亡くなった「ねえちゃ」の夫はよく自慢していました。

木なので、肌にもなじみやすく、ひのきほど主張しない木の香りも心地いい。浸かるのは快適でしたが、湯船が深くて大きいので、風呂掃除や手入れを担当した「ねえちゃ」は、なかなか苦労も多かったようです。

さすがの高野槇風呂も、長年使っていると水分を含んで黒っぽく変色してきました。そこで、いまの家へ引っ越して来るときには廃棄してしまいました。

現在は、ポリエステル系強化プラスチック製のごく普通のお風呂です。ただ、「ねえちゃ」の身長からするとかなり大きいので、ときおり、眠くなってウトウトしているうちにと沈みそうになって「ハッ!」とすることがあるそうです。

 

御嶽海は勝ち越したけど……

一日中パジャマのことが多い「ねえちゃ」ですが、起きてくると、ときどきテレビのスイッチを入れて眺めています。でも、ただボケッと眺めているだけで、何かの番組に興味を持っているという感じではありません。

大相撲の春場所もいよいよ大詰めですが、優勝の行方とか、綱取り、といった話をしてもぜんぜん関心がないようです。

大鵬、柏戸はまあ分かるにしても、現役で顔と名前がかろうじて一致するのは白鵬くらい。琴奨菊も稀勢の里も知りません。

地元、長野県から47年ぶりに生まれた関取として、みんなが期待を寄せている御嶽海も、「名前は聞いたことがある」という程度だといいます。新聞の1面で毎日、御嶽海の勝敗が大きく報じられているのですが……。

大の相撲好きの私は「ねえちゃ」のあまりの無関心さに少々いら立って、「御嶽海の顔が分からないなんて、“しなのの国”を知らないようなもの。自分が長野県人だと言う資格はないんだよ!」と声を荒げたりしても、きょとんとしているだけです。

もちろんプロ野球が開幕したなんて「ねえちゃ」の頭の中にはありません。覚せい剤で大騒ぎの「清原」という名前を耳にしても「そういえば、居たよね」というだけで、それ以上なにも出てきません。

ニュースやスポーツ以上にほとんど観ないのがテレビドラマです。NHKの朝の連続ドラも、大河「真田丸」も、まったく無関心です。

どんな番組でもいいから興味を持って、毎回ストーリーを追っていくようになってくれれば、「頭の体操」になるのではと思い、「ご飯食べながら毎朝15分間観るようにしたら」とか言っても、ぜんぜん効き目はありません。

観たいテレビもない。だから、「なにもやることがない」という「ねえちゃ」の悩みは深まっていきます。

2勝3敗

一昨日、行く直前になって突然キャンセルしてしまった歯医者さん。どうにか電話をして、1週間後の31日の予約を取りました。

これまで直前になって3度もキャンセルしたので、歯科の受付の人から大丈夫ですかと念を押されたのか「いまのところ行けると思いますが……」と、「ねえちゃ」はイマイチ自信なさげでした。

なぜか分からないけれど突然「登校拒否児」に変身したように、直前になると「行けない」と頑なに言い出す「ねえちゃ」。

近ごろではほとんど唯一の外出先となった歯医者さんには、これまで2回診てもらって、3回キャンセル。2勝3敗、それでもイチローの打率を上回る、4割の成績です。

最近の「ねえちゃ」としてはまずまずといえるかもしれませんが、けがに苦しむ照ノ富士だってカド番を脱したのだから、少なくとも「勝ち越し」はしてもらいたいもの。

というのも、親せきの結婚式に行く、という当面の大目標が2週間後に迫っているからです。

今回の3度目の歯医者さんキャンセルで、「こんなんじゃ、結婚式は迷惑かけるばかりだから断ろうか」と弱気な言葉が「ねえちゃ」から漏れはじめました。

「結婚式に出席するんだ、と固く考えることはないんで、たった一人の姉さんと久しぶりに、言いたいこと喋りまくりに行けると思えば、楽しいじゃん」と話すと、少しは気持ちのベクトルを変えることができたようです。

ですが、美容院へ行ったり、着ていくものを決めたりと、「ねえちゃ」にとってはすこぶる高いハードルが、これからいくつも待ち構えているのです。

松井潤
matsuijunta@gmail.com
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