2019年03月05日

専門病棟

昭和62(1987)年8月に出された痴呆性老人対策推進本部の報告で、施設対策として最も緊急を要するとしているのが、「精神症状や問題行動の著しい痴呆性老人の受入施設の問題」です。

当時の状況では、痴呆性老人を抱える家族が多大の精神的、身体的負担を余儀なくされている一方で、既存の体系の枠内では、必ずしも施設が十分な医療や介護を行い得ていない、と断定しています。

そして、特に精神症状や問題行動の著しい痴呆性老人に対しては、「魔の3ロック」といわれるような行動制限や薬物多用といった治療方法よりも「生活機能の回復等に重点を置いて、精神科的な専門医療と十分な介護を行うことが適当」として、そうした医療、介護を可能とする痴呆性老人専門の病棟を、老人人口や医療の供給体制など各都道府県の特性に応じて整備すべきであると強調します。

そして、この病棟にはデイ・ケアを行うための施設を併設し、介護家族の支援や退院の円滑化に役立てる、としたうえで、専門治療病棟の整備や普及を図るために、適切な病院を選んでパイロット事業を実施するとともに、回廊式廊下やリハビリテーション機器などの特殊な施設設備の整備と適切な人員確保に努めることなどを提言しています。


2019年03月04日

「一元的」な体制

グループホームにいるねえちゃは毎晩、電話をくれますが、一昨日「どこにいるのか、何が何だかわからなくて」と落ち込んでいたかと思うと、昨晩、今夜は、そんなのどこ吹く風で、すっかり明るい声で元気です。感情の起伏が大きくなってきているな、と思います。

このブログでいまみている、日本の認知症対策のスタート地点となった痴呆性老人対策推進本部の報告(1987年)でも、「痴呆性老人」の感情面についてふれています。

すなわち、「痴呆の進行に伴い知能が低下しても、感情機能は保たれていることが多いから、恐怖感、焦操感、孤独感といった“心の痛み”を感じやすく、しかられたり、とがめられたりした場合など極度の緊張を強いられると、精神症状や問題行動を生ずることにもなる。

したがって、人間としての尊厳を保つよう、かつての生活歴や性格を踏まえながら、痴呆であるという現実を受け入れ、そのペースに合わせた受容的態度で接するなど、その介護者には他の要介護老人の場合にはみられない特別な配慮が求められる」というのです。

認知症高齢者の抱える“心の痛み”のありようについて、この時点ではまだまだ具体的に、十分、把握できていたとは思われませんが、それまでの通常の要介護老人の場合とは異なる「特別な配慮」を求めている点は評価していいでしょう。

そして「報告」では、このような「特別な配慮」が必要にもかかわらず、「介護家族は、痴呆性老人そのものや介護方法についての情報、知識が乏しいことから、戸惑い、焦り、誤解などのために対応を誤り、症状を悪化させるなど自が困難な状況を作り出している」として、国に対して「率先して、介護家族に対し老人の痴呆そのものや介護の在り方、方法等についての啓発普及に努める」ことを求めています。

さらに認知症患者の医療的処遇については、「精神科ないし一般的医療や介護を始め様々な方面からの対応が求められるが、現在のところ各般の施策は、精神保健、老人保健、老人福祉等別々の体系によって講じられており、相互の連携も必ずしも図られていない」として、国に「一元的、総合的な取組を可能とする組織体制と連携の在り方」を検討すべき、としています。

当時に比べれば、認知症に対する認識や「一元的」な体制は格段に進んできているは確かでしょうが、ここでの提言には、いまも耳を傾けなけれればならない論点が少なからず含まれているようにも思われます。


2019年03月03日

精神病院と違う医療施設

1987(昭和62)年8月に痴呆性老人対策推進本部が出した報告では、施設における介護についても提起しています。

報告では、痴呆性老人は、寝たきり老人に比べても医療面のニーズが高く、介護がより複雑で量的負担も大きいため、家庭で介護しきれない場合の受入施設が必要としています。

そのうえでまずは、既存の施設体系の中で受入れを促進していくこととして、前提となるマンパワー等を確保していく必要があるといいます。

精神症状や問題行動が著しい痴呆性老人には、専門的な精神科医療が必要になりますが、報告では「現在の精神病院の施設・設備や人員配置の基準では、十分な処遇を行うことは困難である」と指摘。

治療効果の上からも、「治療目的も方法も異なる一般の精神病患者とは区分して処遇することが適当である」といっています。

この段階でようやく、鉄格子の独房に閉じ込められたり、手足を縛りつけられたり、といったことがまかり通っていた精神病院とは異なる待遇の医療施設が求められるようになったわけです。

さらに、そのためには「痴呆性老人を受け入れ、短期間で集中的に専門的医療と手厚い介護を行う専門の病棟を整備していく必要がある」として、専門病棟の整備も掲げています。

同時にまた、退院・退所したあとの在宅介護を支援するサービス機能の充実も重要だといいます。


2019年03月02日

ウッソー!

ねえちゃがグループホームへ入って、もうすぐ1年になります。

何もかもが頭に残らないようになって来てはいますが、寝る前に毎日必ず私のところへ電話をかけることだけは、依然としてなぜか忘れません。

話すことといえば、たいていは「おばあさん、どこに居るんだろう? ここに居ていいの?」。きのうもそうでしたが、10分くらいしてまた電話が掛かってきて同じことを繰り返し聞く、ということもしばしばです。

「そこが、いまのおばあさんのウチ。そこで暮らすようになってもうすぐ1年になるんだよ」と答えると、いつも「ウソッー。そんなに長く居るの!」と、ぜったい信じられないというように大声を出して驚いて「おばあさん、そんなにバカんなっちゃったんだね」としばし落ち込みます。

季節や時間の経過など、時間感覚が失われていく見当識障害が進んでいるせいでしょうか。

それでも、「バカんなったから嫌なこともみんな忘れちゃっていいじゃない。のんびり“バカ生活”を楽しみなよ」などというと、落ち着いてきます。

グループホームの担当の人もいいますが、特別に興奮することもなく、最後は「ここがウチだと思っていればいいんだね」と、穏やかな対応にもどる。それが、救いです。


harutoshura at 18:39|PermalinkComments(0)ねえちゃの近況 

2019年03月01日

体系的な研究

以前見たように、アルツハイマー病はそもそも、ドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーが診断した患者アウグステ・データーに関する症例を、1906年に学会発表したことに始まります。

「アルツハイマー病」とされたこの病気をどういうワク組みでとらえるか。その後、ヨーロッパではさまざまな議論をよんでいくことになりました。

その学会発表から80年後、痴呆性老人対策推進本部が設置された日本でも、ようやく、この病気についての調査研究の重要性が叫ばれるようになりました。

いま読んでいる同本部の報告書では、アルツハイマー型痴呆について「その原因・発生メカニズムが不明であり、なによりもその究明が急がれている段階にあるが、欧米諸国においては、老化研究の最重要テーマとして重点的に研究されているのに比べ、我が国は研究が立ち後れている現状にある」と位置づけて、遅ればせながら早急に研究体制を整備し、研究を進める必要性を強調しています。

こうして、原因不明で、日本でも多くの人に老後の不安をもたらすようになってきたアルツハイマー型痴呆に関する研究を始めるとともに、相互の連絡調整をとりながら体系的で集中的な研究を進めていくことを同報告では提起しています。

ここで「体系的」というのは、具体的には次の三つをいっています。

①アルツハイマー型痴呆の原因の突明、治療方法等に関する研究
②脳血管性痴呆の発生予防、治療方法等に関する研究
③痴呆性老人の簡便で正確な診断、スクリーニング方法の開発並びに看護、介護等社会医学、保健福祉に関する研究

こうして、アルツハイマーを始めとする、いまでいう認知症に関する本格的な日本でもスタートしたのです。


2019年02月28日

27年間で8倍

1987年に出された痴呆性老人対策推進本部報告では、痴呆性老人の出現率や将来推計もはじき出しています。

それは1986年8月までに、40の都道府県と6政令市における在宅の痴呆性老人について行なわれた実態調査のうち、精神科医が携わり、方法も類似している12都道府県市の調査結果に基づいたものです。

年齢階層別にみた在宅の痴呆性老人出現率の推計では、

65-69歳  1.2%
70~74歳  2.7%
75~79歳  4.9%
80~84歳 11.7%
85歳以上 19.9%

と、高齢になるにしたがって出現率が高まることがはっきりしました。そして、これをもとに1985年の65才以上の老人人口全体に対する在宅の痴呆性老人の出現率を求めると4.8%になっていました。

さらに、この年齢階層別の出現率をもとに、日本の人口の将来推計を用いて在宅における痴呆性老人数の将来推計を行うと、次のようになったといいます。

1985(昭和60)年 59万人
2000(平成12)年 112万人
2015(平成27)年 185万人

15年間でほぼ2倍、30年間では3倍以上と、急激に増加すると予想していたことになります。しかし現実は、当時の推計をはるかに上回る「急激さ」で進みことになりました。

厚生労働省の2015年1月の発表によると、実際の日本の認知症患者数は、2012年時点で462万人、65歳以上の高齢者の7人に1人と推計されています。

1985年から2012年までの27年間になんと8倍近くに跳ね上がり、2012年時点ですでに2015年の推測値の2.5倍にのぼっていたことがわかります。


2019年02月27日

欧米とは対照的

1986(昭和61)年8月に設置された痴呆性老人対策推進本部が、その1年後に出した報告には「痴呆」について次のように記されています。

まず、痴呆は老化に伴う通常の知能の低下とは異なるものとして、「脳の後天的な障害により一旦獲得された知能が持続的かつ比較的短期間のうちに低下し、日常生活に支障をきたすようになること」と定義しています。

痴呆の分類については、脳梗塞・脳出血などの脳卒中による脳血管性痴呆と、原因不明の脳の変性疾患によるアルツハイマー型痴呆とが代表的であるとし、「我が国においては前者が後者よりも多く、欧米諸国とは対照的である」となっています。

現在では、日本も欧米と同じように「アルツハイマー型」が最も多く過半数を占める状況のようなので、時代の変遷が感じられます。

また当時は、もともとアルツハイマーが初老期の患者の病気としたことを受けて、「初老期に好発するアルツハイマー病」と「老年期に好発するアルツハイマー型老年痴呆」とにはっきり区別しています。

また、痴呆をきたすものとしては他に、脳の外傷や腫瘍、感染、中毒、代謝障害などがあるが、これらの中には根本的な治療が可能なものもあるため、早期に適切な鑑別を行うことが大切だと注意をしています。


2019年02月26日

痴呆性老人対策推進本部

ショートステイやデイサービスが始まり、民間の「家族の会」も誕生するなか、厚生省(現・厚生労働省)もようやく、1986(昭和61)年8月、総合的な痴呆性老人対策の確立を図ろうと「痴呆性老人対策推進本部」を立ち上げています。

本部設置に伴って同省では、専門的事項を検討するため有識者で構成する痴呆性老人対策専門委員会を設け、検討しました。その報告書をもとに、30年余り前のこの時期、痴呆性老人対策がどのようにとらえられていたのか、ここで整理しておきたいと思います。

当時すでに日本は、世界で最も平均寿命の長い国の一つとなり、「かつて経験したことのない高齢社会」に向けて、“豊かで健やかな長寿社会”を実現することが課題と考えられていました。

そんな中、痴呆性老人については「特有の精神症状や問題行動があるため、他の要介護老人とは質量ともに異なった介護が必要」であるとされ、介護する特に家族に多大の負担が伴うのが実情だと受けとめています。

一方で、痴呆という病についてはというと、その発生原因や発生メカニズムに未解明な部分が多いために対症療法的な対策が採られているだけで、①いかに痴呆の発生をおさえるか②どのような治療・介護を行うべきか③介護家族の負担をどう軽減するか④痴呆性老人を受け入れる施設としてどのようなものが必要か⑤医療・介護に当たる専門職はどうあるべきか、といった点について早急に検討する必要があるとしています。


2019年02月25日

「家族の会」発足

『恍惚の人』の茂造のケースもそうだったように、家族が介護疲れにおちいって一時的に介護ができなくなったりしたとき、短期的に施設に入るショートステイ(短期入所生活介護)が、1978年に始まりました。

さらに、翌1979年には、グループホームへ入る前、ねえちゃもお世話になっていたデイサービス(通所介護)がスタートします。

介護施設に日帰りで通うことで、軽い運動や遊戯でストレスの解消をしたり、在宅介護が必要で孤立しがちな人の社交の場を提供したりして、介護する家族の負担を軽減するものです。

1980年には、介護をする家族サイドの団体も生まれました。京都で生れた任意団体「呆け老人をかかえる家族の会」です。

同会は、1994年には「社団法人呆け老人をかかえる家族の会」、2006年に現在の「認知症の人と家族の会」と改称し、2010年に公益社団法人化されました。いまでは都道府県ごとに支部を持ち、会員数は1万人を超えているといいます。

一方で1982年には、老人福祉法には位置づけられていない高齢者の保健・医療サービスの体系化を図ろうと、老人保健法が制定されています。


2019年02月24日

恍惚の人

1972年、有吉佐和子の長編小説『恍惚の人』が、新潮社から「純文学書き下ろし特別作品」として出版され、この年の年間売り上げ1位、194万部の大ベストセラーとなりました。

翌1973年には森繁久彌主演で映画化され、その後もたびたび舞台化されたり、テレビドラマになったりしています。

恍惚の人

80歳代の茂造は、物忘れがひどくなり、妻が亡くなっても放ったらかしにしてしまいます。嫁が対応に苦しみながらも懸命に介護にあたりますが、やがて便器を壊して抱え込んでいたり、便を畳に塗りたくったりと尋常でない行動も見られるようになっていきます。

小説の中で病名が明示されているわけではありませんが、茂造がアルツハイマー病だったと考えてもそう大きな矛盾はないようです。

『恍惚の人』は当時、いろんな面で、社会的に大きな影響を与えました。認知症の人たちのさまざまな行動を目にすると「恍惚の人」と揶揄されるケースも少なくなかったように思われます。

出版翌年の1973年には、東京都が、在宅認知症高齢者の初の実態調査となる「在宅痴呆性老人に関する精神医学的実態調査」を行い、認知症の症状や行動が問題視され、在宅介護が限界にきていると報告されています。

こうした調査はその後、全国各地に広まり、ショートステイやデイサービスなど、認知症高齢者の支援対策にも結び付いていくことになります。


2019年02月23日

魔の3ロック

1988年に出版された大熊一夫の『ルポ老人病棟』によれば、認知症の母親を老人病院入院後13日目で亡くした家族の手記には、次のような話があったといいます。

ある日、母の手首や足首が赤紫のアザになり、ベッドの四隅に白いもめんの帯ひもがむすんであったので、近くのおばあさんに聞いてみると――

「このおばあさんは夜中にトイレに行くと帰りがわからなくなって、よその人のベッドに寝ていて怒られて、それからオシメになったんだ。夜は歩けないように縛られてる」と言ったというのです。

いまのねえちゃのグループホームでは到底考えられないことですが、「魔の3ロック」という言葉があるのだそうです。

①薬の過剰投与や不適切な用い方によって行動を抑えつける「ドラッグ・ロック」②からだを拘束する「フィジカル・ロック」③強い言葉で行動を制限したり拘束したりする「スピーチ・ロック」です。

何も言えず、動けず。ひとむかし前の、ケアなきケアの時代にあっては、これらがあたりまえだったのです。

いまでも「魔の3ロック」が一掃されたとはいえません。けれど、少なくとも発覚すればメディアで問題視され、犯罪が疑われる時代にはなっています。


2019年02月22日

『海辺の光景』

1959年『群像』(11月・12月号)に掲載され、同年講談社から本になった安岡章太郎の代表作『海辺の光景』(かいへんのこうけい)の主人公は、狂気して入院している母の末期が近いと父から報せを受けて高知県へ赴きます。

そして主人公の息子は、いまでいえばアルツハイマー病ではないかと思われる母親の死を看取るため、何日間か土佐の桂浜に面した精神病院で過ごすことになります。

小説には、母親は単なる気狂いのように扱われてロクな治療も施されず、鉄格子のある劣悪な環境で手荒な介護を受けているのにもかかわらず、息子はそれに何ら疑いを持たず、受け入れている様子が描かれています。

当時としては、それが当たり前の扱いだったのでしょう。実際、安岡の母親は、病の初期段階は家にいたものの異常行動が目立ってきて面倒をみられなくなり、精神病院のなかに隔離されることになったようです。

母の死の直後、安岡が病院の庭に立って海辺の光景を眺めていると、凪いで波もない水面には、無数の棒杭が立っていて、それが死んだ母親への鎮魂のしるしのように受け取られたといいます。


2019年02月21日

老人福祉法

高齢者福祉に関する日本の施策は、1963(昭和38)年7月11日に公布された「老人福祉法」によってはじまることになります。

高齢者の人口が増加してきたのに対応して老人の福祉の原理を明らかにした法律で、「老人は、多年にわたり、社会の進展に寄与してきたものとして、かつ、豊富な知識と経験を有する者として敬愛されるとともに、生きがいをもてる健全で安らかな生活を保障されるもの」とする基本的理念が掲げられています。

さらに、老人については、心身の健康を保持しつつ、社会的活動に参加する機会を与えられ、老人みずから参加するように努めるものとされました。

この基本的理念に基づいて、ホームヘルパー増員、デイサービス事業、ショート・ステイ増床などの在宅福祉対策があげられ、「養護老人ホーム」「特別養護老人ホーム」「軽費老人ホーム(ケアハウス)」といった高齢者施設の体系化も行われました。

しかし、当時は、認知症の人の実態については、行政サイドも、研究レベルでも、ほとんど把握されていませんでした。

認知症の人が行く先は、精神病院、老人病院や特別養護老人ホームなど。認知症という病気に対する認識が一般にないばかりか、医療現場でさえ鑑別診断が十分なされず、ケアの根拠や方法も皆無に近い状態だったのです。


2019年02月20日

癲狂院

アルツハイマー病の薬の状況については、これからも逐次、調べていきたいと思いますが、ここでしばらく、アルツハイマーを含めた日本の認知症ケアの歴史についてざっと振り返っておきます。

高齢者や精神障害者への福祉は、明治初年まで制度的なものはありませんでした。

精神病の治療は仏の呪力を願う儀式的なものに頼り、精神を患うと座敷牢や神社・寺院に収容されることもあったようです。

むかしは、認知症も、精神病患者もいっしょくたされていたのです。

明治8(1875)年、日本初の公立精神病院として京都癲狂院(てんきょういん)が設立されました。「癲狂」とは、気がくるうこと、ものぐるい、狂気、といった意味です。

京都府が、岩倉大雲寺における加持祈禱に頼る精神障害者の治療法の改善手段として計画したのです。

南禅寺方丈内に仮癲狂院を設けて、岩倉大雲寺などの患者を収容しました。しかし経営難のため、開院から7年後の1882年10月には廃院になっています。

京都につづいて東京でも設立されましたが、当時のこうした施設では、病人を殴る、蹴る、縛る、食事を与えないといった非人間的な行為も少なくなかったといいます。


2019年02月19日

アミロイド免疫療法

きのう見たようなセレクターゼ阻害剤のほかに、免疫細胞の働きによって、アルツハイマー病の原因とみられる脳内に溜まったβアミロイドを排除する治療も考えられます。アミロイド免疫療法です。

免疫細胞は抗原(免疫細胞が攻撃の目印にする物質)がはっきり提示されていれば、それだけ容易に攻撃態勢へと入ることができます。

2000年に、老人斑を形成するアルツハイマー病モデルマウスに合成アミロイドを抗原として接種すると、老人斑形成が予防され、認知機能障害も改善することが報告されました。

開発された「合成βアミロイド42」は、英国で臨床試験が始まりましたが、臨床試験の中で、脳脊髄膜炎が有害事象として現れたため治験は中止となりました。

セレクターゼ阻害剤もアミロイド免疫療法も、脳内のアミロイドが除去されることはほぼ確認されていますが、それを臨床症状の改善に役立てることができるかどうかについてはまだ微妙な段階にあるようです。

今後の研究の進展が待たれます。


2019年02月18日

γセクレターゼ阻害剤

脳に蓄積されてアルツハイマー病の原因になると考えられている「βアミロイド」を詳しく見ると、「アミロイド前駆体たんぱく質」(APP)という物質から切り出されてできるペプチド(アミノ酸が二つ以上結合したもの)であることが分かっています。

この「切り出し」の最終段階では、「γセクレターゼ」という酵素が働いてます。γセクレターゼによって、このたんぱく質が切断されて細胞外に放たれ、脳内にβアミロイドが蓄積されていくのです。

γセクレターゼによって切断されたβアミロイドは、とりわけ凝集能が高いので、もしも「γセクレターゼによる切断」を抑え込む薬ができれば、きのう見たアルツハイマー病をやっつける「セレクターゼ阻害剤」として極めて有力と考えられます。

実際、「γセクレターゼ」の阻害剤が、髄液、脳皮質、海馬などで、βアミロイドを減少させることが動物実験で確認されています。

とすれば、アルツハイマー病の根治薬としてすぐにでも使えるようになるのかな、とも思えますが、そうは簡単にはいきません。

「γセクレターゼ」というのは、βアミロイドだけでなく、生物の発生や分化に関わる「Notch」という生理的に重要なたんぱく質の切り出しも行っているからです。

そのため、「γセクレターゼ阻害剤」はそのままでは、消化器障害や皮疹、倦怠感、さらには、がんなどの副作用を起こしてしまうリスクを負ってしまいます。

こうした「Notch」への影響を少なくして、「γセクレターゼ」の働きを選択的に抑え込むことができないか。そのための「γセクレターゼ」の機構解明や薬の開発研究が、現在も、しのぎを削ってつづけられています。


2019年02月17日

アミロイドカスケード仮説

ねえちゃが飲んでいるアリセプトやメマリーを含め、現在使われている4つの薬は、これまでにも見たように、進行を遅らせることはあっても、アルツハイマー病を食い止めることはできません。

アルツハイマー病は、βアミロイドと呼ばれるペプチド(アミノ酸が二つ以上結合したもの)が、脳の中に蓄積されることによって起こるという説が、現在、有力とされています。「アミロイドカスケード仮説」と呼ばれる考え方です。

βアミロイドの沈着が、最初期に病変として捉えられること。βアミロイドが凝集すると、直接、神経細胞毒性が現れうること。さらに、家族性アルツハイマー病患者の遺伝学的解析などが、この仮説の論拠となっています。

そして、この仮説に基づいてアルツハイマー病の根本治療薬を開発しようと、世界中の研究者たちががしのぎを削ってきています。

その主なものとして、βアミロイドが作られるの阻止するセレクターゼ阻害剤や、脳内に沈着したアミロイドの除去を試みる免疫療法があります。


2019年02月16日

忘れない電話

ねえちゃの連れ合いが亡くなってからグループホームへ入るまでの7年間は、ねえちゃの家に行ってないときは、私からねえちゃに毎晩、電話を掛けてきました。

が、グループホームへ入ってからは、ねえちゃが携帯から毎晩必ず電話をくれています。

今晩もそうでしたが、掛けたことを忘れて5分後、さらに1時間後にも、なんてことはことはしょっちゅうですが、掛けるのを忘れるということはまずありません。

あれだけすぐに何もかも忘れてしまうのに、どうして電話を掛けることだけは忘れないのか。いまだもってナゾです。

電話で、「元気でやってる?」と聞くと「カラダは元気だけど、バカで何がなんだか分んなくなっちゃって……」といつものように言いはじめます。

「バカんなっちゃったから、そこへ入れてくれたんだ。おばあさんがバカんなっちゃってることは、みんな知ってるから大丈夫だよ」というと、何となくホッとするようで、「おやすみ~」となります。

夕食を終えて自分の部屋に戻ってくと、暗がりのだれも知らない道を、行き先も、来たところも、分からず、一人っきりでふらふら歩いているような孤独感に包まれるのかもしれません。

そんなとき「おばあさんがふらふら歩いてるの、みんな分ってるから」というだけで、ふっと、不安から解き放たれる瞬間を得ることができるのではないか、というようにも感じます。


harutoshura at 23:01|PermalinkComments(0)ねえちゃの近況 

2019年02月15日

警報レベル割る

厚生労働省がきょう、最新1週間(4~10日)のインフルエンザの患者数について、発表しました。

それによると、全国約5000カ所の定点医療機関から報告された患者数は、1カ所あたり26.28人(前週43.24人)と、警報レベル(30人)を下回ったそうです。

全都道府県で前週よりも減り、長野県も27.79人と警報レベルを割りました。

ウイルスのタイプ別では、直近の5週間では、いわゆる香港型のAH3亜型が57%、2009年に流行したAH1pdm09が42%、B型が1%の順だったそうです。

夜、ねえちゃから、いつものように部屋に戻ってきて寝る前に電話がありました。

「元気でやってる?」と聞くと、いつものように「アタマ以外は元気」。

インフルエンザについても流行っていることは何となく認識しているようですが、グループホームで特に変わったことはなさそうです。


harutoshura at 22:17|PermalinkComments(0)ねえちゃの近況 

2019年02月14日

峰さんのお姉さんと……

グループホームから、ねえちゃの1月の生活記録が届きました。

新しい職員さんに「私は峰竜太さんと同じ下條村の出身で、峰さんのお姉さんと知り合いでした」と饒舌に話したり。

新年祝賀会では、獅子舞に噛まれたり、落語を聞いたり、水戸黄門の寸劇では、悪役にステージまで連れて行かれて、お酌を強要されて、けっこう、その気になって楽しくやったり。

ホームでの生活をエンジョイしているようです。

簡易知能評価スケールで、知っている野菜を言う設問は、満点。「農家の娘だったからあたりまえよ」と嬉しそうだったとか。

やはり、頭の中に記憶として残っていくことは非常に少なくなって来ていますが、一瞬一瞬を楽しめている蓄積は、かけがえのないものに違いないと思います。


harutoshura at 06:45|PermalinkComments(0)ねえちゃの近況 

2019年02月13日

アルミニウム

アルミニウムの摂取がアルツハイマー病の原因のひとつであるという説があります。

第2次世界大戦後、グアム島を統治した米軍が、老人の認知症の率が異常に高いことに気づき、調べたところ地下水に非常に多いアルミニウムイオンが検出されたそうです。

1989年には、飲料水中のアルミニウム濃度とアルツハイマー病の発病率に相関関係があるという大規模な疫学調査の結果が「ランセット」の巻頭をかざり、注目されました。

アルツハイマー病患者には、アルミニウムが含まれるベーキングパウダーを使って調理したパンケーキ、ワッフル、ビスケットなどの食品の摂取が多かった、という症例対照研究もあるそうです。

一方、アルミニウムを多くとり入れた薬とアルツハイマーのリスクは無関係だったという追跡調査など、関係を否定する研究も出ています。

アルミニウムとアルツハイマー病の関係については、いまだ決着は着いていないというのが実情のようですが、アルミニウムに神経毒性があることは多くの専門家の認めるところ。蓄積しすぎれば、脳に障害を与える可能性を高めることは確かです。

そのため、アルミニウムを封鎖してしまうキレート剤を使う試みも実施され、一定の成果をおさめているそうです。


2019年02月12日

ビタミンE

脳の老化にかかわる神経毒性をもつ重要な物質として、活性酸素などのフリー・ラジカルが知られています。有機化合物から元素が一つ引き抜かれた形の化合物で、対になっていない電子をもつため反応性に富んでいます。

神経細胞死を引き越している証拠も、いろいろあがっています。このフリー・ラジカル
を消去する“掃除屋”としてよく知られているものに「ビタミンE」があります。

アーモンド

ビタミンEは、アーモンドなどのナッツ類、胚芽油、ウナギなど魚介類、大豆、緑黄色野菜などに多く含まれ、生体膜の機能を正常に保ったり、赤血球の溶血を防いだりすることに関与しています。

かなり重いアルツハイマー病患者に、こうしたビタミンEを通常の1日必要量(12~15ミリグラム)より多く飲ませて、プラセーボ(偽薬)を飲んだ人たちと比べた調査で、状況が防げたといいます。

また、ユタ州の65歳以上の住民4740人を対象とした調査で、ビタミンEとビタミンCをいっしょに取りつづけることで、アルツハイマー型認知症になりにくくなるという疫学調査の結果も出ています。

ただしビタミンEは、脂溶性のため体外へ排出されにくく、発疹、下痢、便秘、脱力感などの副作用を起こすこともあるので注意が必要だそうです。


2019年02月11日

ハンセン病の薬

近年、日本では患者が非常に少なくなりましたが、以前、国の隔離政策で断種や堕胎を強いられるなど人権侵害も起こった、ハンセン病という感染症があります。

結核菌と同じように抗酸菌の仲間に含まれるらい菌という細菌が、皮膚や末梢神経を侵し、進行すると顔面や手足の変形や欠損といった後遺症を残すことがあります。

不思議なことに以前から、このハンセン病の患者にはアルツハイマー病が少なく、その原因がその薬にあるのではないかといわれてきました。

リファ

最近、実際にハンセン病や結核の治療に50年近く使われている「リファンピシン」という抗生物質にアルツハイマー病を予防する効果があることが、大阪市立大学などのグループによる実験で確かめられています。

平成28年3月、英国の神経学雑誌「Brain」に掲載された研究です。アルツハイマー病では、「アミロイドβ」と「タウ」というタンパク質が脳に蓄積されて神経細胞を傷つけることが知られています。

研究者たちは、アルツハイマー病などの症状にさせたモデルマウスにリファンピシンを1カ月間投与しました。

すると、抗生物質を飲んだマウスは、飲まなかったマウスと比べて、タンパク質の蓄積が減って記憶障害が改善されることが分かったのです。

さらに、プールでマウスを泳がせ、足場にたどり着く作業をさせて記憶力をはかる実験では、健康なマウスとほぼ同程度の記憶力を持つまで回復が見られ、一方で投与しなかったマウスは逆に症状が悪化したそうです。

すでに使われている薬の中にも、アルツハイマー病の有力な予防薬につながる可能性を秘めたものもあるわけです。


2019年02月10日

鉄剤

ねえちゃが飲んでいるアリセプト、メマリーなど、国内で承認されている四つの薬以外で、治療効果が報告されているものに、貧血の治療などによく用いられる「鉄剤」があげられます。

1992年、遺伝性のアルツハイマー病と確定していた患者に治療効果があったというレポートが、当時、兵庫県立尼崎病院(現尼崎総合医療センター)に所属していた今川正樹医師らによって、英国の権威ある医学雑誌「ランセット」に発表されたのです。

The_Lancet

治療には、よく使われる脳代謝改善薬(コエンザイムQ10とビタミンB6)に加えて、「クエン酸第1鉄」が用いられました。遺伝性のアルツハイマー病にかかった姉妹に、これら3種の薬を毎日2年間にわたって飲み続けてもらいました。

すると、妹のAさんはバイクに乗って買い物に行けるほどにまで回復し、お姉さんのほうも症状の悪化、進行がなくなったといいます。また、薬をやめた期間には症状が悪化し、また飲むと良くなったそうです。

Aさんはその後も、鉄剤などを飲みはじめてから約5年間、自発的に身の回りのことをしたり、姉の看病をしたりして、アルツハイマー病とはとても言えないほどにまで回復することができたといいます。


2019年02月09日

NMDA受容体

ねえちゃも毎日飲んでいる「メマリー」には、きのう見たように、過剰なグルタミン酸の放出を抑えて、結果的に脳の神経細胞が死んでしまうのを防ぐ働きがあります。

メマリーの働きを考えるとき、キーになるのは「NMDA受容体」というたんぱく質です。もう30年近く前になりますが、私は、このNMDA受容体の構造が明らかになったという、次のようなニュースを書きました。

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〈記憶や学習といった脳の働きに欠かせないたんぱくの構造が分かった、と中西重忠・京大医学部教授らのグループが七日発行される英科学誌「ネイチャー」に発表した。脳卒中などの病気で、神経細胞が死ぬのを防ぐ薬の開発などへも応用できそうだ。

脳の中では一つの神経細胞から出たグルタミン酸などの物質が、別の神経細胞の表面にある受容体というたんぱくにくっついて信号がやり取りされている。グルタミン酸は記憶したり、学習で知識を積み重ねる脳の働きと深くかかわりがある一方で、蓄積されすぎれば、神経細胞を死に追い込むと考えられている。

構造がわかったのはグルタミン酸の受容体として知られている三つのうち、NMDAという受容体。ラットの脳の遺伝子の中からNMDA受容体の設計図に当たる遺伝子だけを分離。その構造をもとに受容体の構造を明らかにした。〉(『朝日新聞』1991.11.7付)

ここに記した「神経細胞が死ぬのを防ぐ薬の開発」の一つの成果がメマリーということになります。

ちなみに、中西重忠先生は、昨年ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑先生の京大での同級生。こちらもノーベル賞級の業績を上げておられる世界的な医学者です。

アルツハイマー病になって、神経細胞をつなぐシナプスのあいだにグルタミン酸が過剰に放出されると、その受け手である、このNMDA受容体も異常な活性化を起こして、過剰な働きをしてしまうことになります。

メマリーは、NMDA受容体にくっついてフタをすることにより、その機能を抑える働きをするのです。この働きによって神経細胞を守り、記憶の情報伝達を整える効果が期待できます。

こうした新しい働きをもつメマリーは、ねえちゃを含め中等度以上に進行した人向けの薬として使われるようになり、日常生活動作の改善に加えて、興奮や落ち着きのなさを抑える効果もあるとされます。

しかし、神経細胞障害を抑制はできても、障害によって死んだ細胞を生き返らせられるわけではありません。また、NMDA受容体の異常な活性化を引き起こす原因を取り除けるわけでもありません。

という意味では、残念ながら、メマリーにしても他の三つの薬同様、アルツハイマー病の進行を完全に止めたり、認知機能をもと通りにすることは期待できないのです。


2019年02月08日

グルタミン酸仮説

ねえちゃがアリセプトといっしょに服用している「メマリー」は、他の三つのアルツハイマーの薬と、そのしくみのどこに違いがあるのでしょう。

メマリー

アリセプトなどは、神経伝達物質の一つアセチルコリンが不足しているのがアルツハイマー病の原因、と考えるアセチルコリン仮説に基づく薬でした。

しかしメマリーはというと、アセチルコリンではなくて「グルタミン酸仮説」に基づいて開発されたのです。

グルタミン酸も脳内の記憶や学習に関わると考えられている神経伝達物質の一種で、アルツハイマー病の患者の脳では、異常なタンパク質の働きでグルタミン酸が過剰な状態になってしまいます。

そのために、グルタミン酸の量が適正なら記憶できるのに、過剰になってしまったがたえにシグナルの伝達が妨害されてうまくいかなくなり、記憶が困難になってしまうという考え方です。

メマリーには、過剰なグルタミン酸の放出を抑えて、結果的に脳の神経細胞が死んでしまうのを防ぐ働きがあるのです。


2019年02月07日

貼り薬も

アルツハイマー病の薬としては、米国で1999年に発売されたエーザイのアリセプトをはじめとする「塩酸ドネぺジル」だけの状態が長く続きました。

しかし2011年には、ガランタミン(商品名レミニール)、リバスチグミン(同イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)、メマンチン(同メマリー)の三つの薬がそろって発売になり、一気に4剤の利用が可能な時代を迎えました。

あの、東日本大震災という大変な不幸が襲った2011年は、アルツハイマー病治療の歴史のうえでは、意味深い年となったわけです。

新たに加わった三つの薬のうちレミニールや、リバスチグミン系の薬は、アリセプトと同じコリンエステラーゼ阻害剤ですが、アリセプトとは異なる部分に働きかけるなど、それぞれに特徴があります。

イクセノン

イクセロンパッチ、リバスチグミンパッチという商品名からも予想されるようにリバスチグミン系の薬は、貼り薬であるという点で、内服薬である他の3剤と異なります。

内服薬のほうは、まれに食欲不振や吐き気のほか、怒りっぽくなったり、徘徊や暴力がひどくなるなど副作用が見られることがあります。しかしリバスチグミン系の貼り薬だと、血液中の濃度を急に上げることなく穏やかに作用するため吐き気などの副作用が出にくく、薬を飲めない人も利用できます。

ねえちゃはいま、アリセプトといっしょにメマリーを服用していますが、この薬は他の三つとは、その働くしくみがまったく異なっています。


2019年02月06日

世界初

世界初のアルツハイマー病治療薬として登場したのが、ねえちゃも飲んでいるエーザイの「アリセプト」(化学物質名はドネペジル塩酸塩)です。

これまで見てきた神経伝達物質「アセチルコリン」を補うコリンエステラーゼ阻害剤のひとつで、米国では1997年、日本では1999年に発売されました。

アリセプト

アリセプトは、高齢化に伴い宿命的に起こると見られてきたアルツハイマー病が、薬での治療が可能な「病気」として理解されるようになった、という意味でも画期的な貢献をしました。

エーザイでアリセプトの開発に携わった杉本八郎は、認知症の母親に「だれ」と尋ねられて「八郎ですよ」と答えると、「私にも八郎という子どもがいるんですよ」と返って来たのがショックで、会社から開発中止の命を受けてもひたすら研究をつづけた、といわれています。

新薬開発では欧米企業に後れをとるケースが多いとされるなか、アリセプトは日本国外でも市場占有率8割以上を誇る存在になっているとか。

進行度が中程度までなら20~30%ぐらいの有効率があり、症状を数カ月~1年ほど前の状態まで回復できる、ともいわれます。

アリセプトがねえちゃに効いたかどうかは、よくわかりません。ただ、飲むようになって何となく心身ともに落ち着いてきたなという感じはしました。「薬を飲めば」という希望を持てるようになった、という心への働きも大きかったと思います。


2019年02月05日

コリンエステラーゼ阻害剤

さて、ふたたびアルツハイマー病の薬の話に戻ります。

アセチルコリンを補充してやるような薬をつくることができれば、アルツハイマー病の治療薬になるのではないか。

という発想で、製薬会社の激しい開発競争がはじまりましたが、どうやってアルツハイマー病に効く薬を選び出すかというスクリーニング上の問題など、困難な点が多く、効きそうなものがなかなか見つかりませんでした。

そうしているうちに、アルツハイマー病の患者の脳の中では、アセチルコリンだけでなく他の神経伝達物質も軒並み減っていることも分かって来ました。

こうして、アセチルコリン仮説の根拠が弱いことが分かり、この仮説はアルツハイマー病研究の中心からだんだん離れていくことになっていきます。

とはいえ、このアセチルコリン系の薬が、世界初の認知症治療薬として、アメリカで認可されることになります。

アセチルコリンの分解酵素であるコリンエステラーゼを阻害することによって、減少したシナプス間隙のアセチルコリンを増やす薬です。現在、日本では、3種類のコリンエステラーゼ阻害剤が認められています。


2019年02月04日

立春

立春のきょう、久しぶりに長野市のねえちゃの自宅を訪ねました。ただし今回は、インフルエンザのため、グループホームのねえちゃとの面会はなしです。

南から暖かい空気が流れ込み、各地で平年を大きく上回る気温を記録しましたが、長野も春の陽気。飯田で明け方の気温が14.5度を記録するなど、正午時点で県内30観測地点のうち25地点で今年の最高気温を観測しました。

自宅の庭には、湿った雪が少し溜まっていましたが、きょうの暖かさでほとんど溶けました。この冬は長野県も暖冬傾向で、雪が少ないようです。

ただ、大気の下のほうが暖かいため、湿った重い雪になり、鉄道の運行トラブルは相次いでいるといいます。

グループホームへ入ってもうすぐ1年になります。家へ来る郵便物もずいぶん減ってきました。電話もほとんどかかって来なくなって、連れ合いの仏壇があるだけのところになりつつあります。

雪も、インフルエンザも、ほどほどのところで収まって、本当の春を迎えたいものです。


harutoshura at 19:29|PermalinkComments(0)ねえちゃの近況 

2019年02月03日

罹患者

毎日、夜、眠る直前に電話をくれるねえちゃですが、きのうの夜は午後6時半ごろ、かかってきました。

「えらい早いじゃん、どうしたの」と聞くと、「食事が終って、もう、みんな部屋に帰ってだれも居ない。もうパジャマになったから寝る」といいます。

ヘンだなと思っていると、グループホームの責任者のかたから、ホーム関係者にインフルエンザに罹った人が出たので面会を控えて欲しいという旨の電話をいただき、納得しました。

そういえば、猛威を振るうインフルエンザは、1月21日~1月27日の推定患者数が約228万人に達し、ついに過去10シーズンの最大数を上回ったというニュースが流れていました。 

国立感染症研究所の流行マップでは、この週の定点当たりの報告数は、前週から3.18増加して57.09となりました。都道府県別では、長野県は64.72で8番目と上位にあるようです。

インフルエンザウイルスの大きさは、0.1ミクロン(1万分の1ミリ)程度といわれます。いくら注意をしても、完全に防ぐのには限界があります。広まらないように出来ることをやっていくしかありません。


harutoshura at 05:45|PermalinkComments(0)ねえちゃの近況 

2019年02月02日

パーキンソン病の場合

アルツハイマー病と同じように脳の老化に伴って増える病気にパーキンソン病があります。

1817年に英国の医師J.パーキンソン(1755-1824)が初めて報告した病気で、高年齢者に多く、ふるえや、筋肉のこわばりなどの症状が現れます。

また、表情は仮面のようになり、からだが前傾し、歩幅が小刻みになる特徴的な歩行障害も見られます。

ドーパ

パーキンソン病には中脳の「黒質」というところにあるメラニン細胞に変性や萎縮がみられ、そこで働いているドーパミンという神経伝達物質が不足していることが分かってきました。

そこで、ドーパミンが生成されるもとなる物質であるL−ドーパや、ドーパミンの放出を促すアマンタジンなどの薬によって症状が良くなったのです。

もしもきのう見たアセチルコリン仮説が本当なら、アルツハイマー病の場合は、ドーパミンのように神経伝達物質の一種であるアセチルコリンが不足していることが原因であっても不思議ではありません。

とすれば、パーキンソン病の場合のL−ドーパのように、アセチルコリンを補充してやるような薬をつくることができれば、アルツハイマー病の治療薬になるのではないかと当然のように考えられたのです。

しかも、アセチルコリンを脳内で作る酵素や、壊す酵素、それが結合して情報を伝える働きをするアセチルコリン受容体というたんぱく質の構造など、すでに知られていたので薬の開発競争にも拍車がかかったのです。


2019年02月01日

アセチルコリン仮説

少し前まで「アルツハイマー病に薬はない」というのが、常識でした。いまでは4つの薬が利用できるまでになり、ねえちゃもそのうち2剤を毎日欠かさず飲んでいます。

ただし残念ながら、現在使用されている薬にはアルツハイマーの進行を根本的に阻止する働きはなく、飲みつづけていても病気は進行していきます。

これからしばらく「薬」を通して、アルツハイマー病について考えてみたいと思います。

薬というのは通常、「この病気は、こういう原因で起こる」という仮説をもとに、開発が進められていきます。

アルツハイマー病の新薬の開発は、その原因に関する「アセチルコリン仮説」に、世界中の製薬会社が飛びつくかたちで、1980年前後から盛んになりました。

アセチルコリンというのは、脳の神経細胞と神経細胞のあいだを結んでいるシナプスで情報を伝える役割を担っている神経伝達物質です。

その当時、アルツハイマー病になるとアセチルコリンが働いている大脳基底核というところの神経細胞がやられてしまうことが明らかになったため、アセチルコリンが一躍注目されたのです。


2019年01月31日

PET

微量の放射線を出す薬を体内に投与して体外からその分布を計測し、画像化する方法には、きのう見たSPECTのほかに、PET(陽電子放出断層撮影) があります。

SPECTが利用する放射線はガンマ線であるのに対して、PETは、陽電子(ポジトロン)を放出して崩壊する放射性薬剤を用い、それを特殊なカメラでとらえて「脳の働き」を画像化します。

SPECTでは脳血流を表す断層画像が得られますが、PETでは局所の脳血流量のほか、酸素消費量、ブドウ糖利用率などを測定することができます。

PET
*浜松PET診断センターの資料から

脳の中では、大量のブドウ糖や酸素が消費されていますが、神経細胞の活動が活発な部分ほど、それらの代謝が盛んで、活動の低下したところの代謝は低くなります。

脳のPET検査でブドウ糖や酸素の代謝を見ることによって、アルツハイマー病の初期症状を見つけることが可能になるのです。

また、先日見たアルツハイマー病の脳に見られる「老人斑」は、アミロイドβというタンパク質が蓄積したものと考えられます

症状が現れる何年も前に脳内にアミロイドβの沈着がはじまり、続いてシナプス機能障害、神経細胞障害、脳萎縮がおこり、最終的に認知機能障害などが現れるとも考えられます。

このアミロイドβやシナプス機能障害もPETで測定できます。ですから、症状が現れる前にアルツハイマー病の発症を診断することもできるのでは、と期待されています。


2019年01月30日

SPECT

CTやMRIで脳の断面の形を写し出すことによって、脳の局所的な萎縮や異常構造を探ることができるようになってきました。

こうした形態の画像のほかに、脳の「働き」を調べる検査機器も進歩してきています。その一つに脳血流シンチグラフィ=写真=があります。

シンチ
*国立国際医療研究センター病院のサイトから

ごく微量の放射線を出す薬を注射して、それを信号として、専用のカメラで検出するもので、脳の血流が十分かどうか、脳の機能が低下していないかどうかなどの情報を得ることができます。

薬から出る放射線の分布をコンピューターで再構成した断層画像は、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)と呼ばれていています。

SPECTを用いれば、従来のCTでは表わせなかった血流や代謝の情報が得られるので、脳内の血流量が少なくなっている場所を特定すれば認知症の診断にも役立つわけです。

ただ、従来のSPECTは、CTに比べると解像度が悪く、病変の部位を特定することが困難でした。

しかし近年は、SPECTとCTの画像を重ね合わせることで、病変の正確な位置を突き止めることもできるようになってきています。


2019年01月29日

病院で集団感染

インフルエンザが猛威をふるっていますが、ねえちゃが暮らす長野県の病院でも、集団感染が発生して80代の男女2人が亡くなりました。

集団感染が発生したのは、松本協立病院。今月11日以降、インフルエンザが流行り、入院患者19人、職員35人の計54人に陽性反応が確認されたそうです。

亡くなった女性は12月上旬に入院して1月18日に発熱。その後、気管支炎の症状を発症して25日に、男性は12月中旬に入院して1月26日に発熱し、同28日に亡くなったそうです。

死因とインフルエンザとの関連について、病院側の記者会見では「女性は関連がないとは言い切れない。男性は判断が極めて難しい」としているとか。

入院患者や職員の多くは快方に向かっているそうですが、23日に発表された感染症情報によると県内のインフルエンザ患者は1医療機関当たり58.09人で、近年では大流行した2005年に次ぐレベル。まだまだ油断はできないそうです。

きょうの夜、いつものようにねえちゃから電話がかかってきたので「長野県の病院でも集団感染で2人亡くなったそうだけど、大丈夫?」と聞いてみると、「ええっ、そんなに流行ってるんだ。気を付けないとね」。


harutoshura at 23:30|PermalinkComments(0)ねえちゃの近況 

2019年01月28日

MRI

きのう見たCTは、1895年にレントゲンが発見したX線を脳などにあてて輪切りの像を見る装置でした。これに対してMRI (Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像)は、大きな磁石による強い磁場と電波の力で断面像を撮る画像診断装置です。

磁力と電波を用いた、文字通り「磁気の共鳴」によって、体の大半を構成する水などの中にある水素原子の信号をとらえて、組織の断層を撮影するのです。

米国の化学者ポール・ラウターバーらが1970(昭和45)年に考案。彼はこの業績で2003年のノーベル生理学・医学賞を受けています。

MRI
*認知症患者のMRI。健常高齢者に比べて脳室の拡大や脳表面の萎縮が著しい
(循環器病研究センター循環器病情報サービスのサイトから)

X線を使って画像を得るCTと違って大きな磁石を用いるMRIは、放射線による被ばくがなく、小児でも安心して検査を受けることができます。 

またMRIは、横に輪切りにするのが主のCTに比べ、縦、横、斜めなど体の断面をより自由に撮影できるのも特長です。

CTだと骨と重なって見えにくいところが出て来ることがありますが、MRIではそういうことが少なく、とくに脳をはじめ、水分を多く含む臓器や血管など、柔らかい組織を鮮明に映し出すのに適しています。

ただ、わずかな時間でできるCTとちがい、MRIは30分から1時間程度と撮影に時間がかかるうえ、磁石や電波を使うのでペースメーカーなどの金属が入っていると検査を受けられなかったり、騒音を我慢する必要があるといったデメリットもあります。

ねえちゃもCTとMRIの両方を用いましたが、互いの長所を生かし、見比べながら、お医者さんたちは認知症を見極めているのです。


2019年01月27日

CT

画像診断でいま、病院で最も日常的に利用されているのがCTでしょう。

CTとは、コンピューター断層撮影法(Computed Tomography)のこと。エックス線を使って脳を含め体を輪切りにして画像にする装置です。

ねえちゃも、物忘れがひどくなって近所の脳神経外科に行ったとき、まず最初に受けたのがCTの検査でした。

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*国立循環器病研究センター循環器病情報サービスのサイトから借用

CTの技術は、いまから40年余り前、英国の電子技術者ゴッドフリー・ニューボルド・ハウンスフィールド(Godfrey Newbold Hounsfield、1919-2004)らによって開発されました。

1975年に全身スキャナの装置が完成し、ハウンスフィールドは1979年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

よく見かけるように、CT検査は丸い筒の中に頭を入れて行われます。この筒の中から、患者の頭を一周するようにエックス線が照射されます。

そして頭を通過したエックス線をコンピューター計算で重ね合わせると、頭の中を輪切りにしたような画像が得られるのです。5分ほどで撮影でき、後処理も早いので患者への負担もあまりありません。

CTでは、骨は白く、水は黒く、脳はその間のいろんな濃淡を伴った灰色に見えます。脳のしわ、脳脊髄液が入っている脳室、周囲の骨などもくっきりと分かります。

とくに脳出血など出血を伴う病気でCTは威力を発揮しています。新しい出血があると、素人のでも一目瞭然なくらい、白くはっきりわかるのです。

たとえば体にまひが起こってCT検査を受けて、白い塊が見つかれば脳出血、そうでなければ血管が詰まる脳梗塞の可能性が高い、といった迅速な診断につながっていきます。

MRIが登場して、CTは少し古い検査のようにも見られがちですが、性能は日進月歩で進化して、ひととき前とは比べものにならないほど脳の中がきれいに、短時間で見えるようになってきているそうです。


2019年01月26日

画像診断

アルツハイマー病かどうかを調べるため、生きている脳から細胞の切片を取ってきて病理学的な診断をするわけにはいきません。

その代り、近年、脳をはじめ人間のからだの中を文字通り「見る」画像診断技術が進歩し、病院への普及も急速に進んでいます。生きている脳の中を随時、外から観察できるようになってきたのです。

脳神経外科や脳神経内科のクリニックなら、最近はCT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)が置かれているのが当たり前になってきました。

CTやMRIを用いれば、脳の萎縮の程度を調べることができます。さらに、SPECT(単一フォトン放出撮影)やPET(陽電子放射断層撮影)を使えば、脳のどの部分で活動の低下が起っているのか、いわば“血のめぐり”の状況を眼で見ることができるのです。

ねえちゃも、アルツハイマー病の診断や症状の進行状況を調べるのにCTやMRIの検査を何回も受けてきました。

最近はとくに高性能のMRIが普及してきたので、研究者たちでも、最初に被験者となるとき「脳がスカスカだったらどうしよう」などと、ちょっぴり不安になるのだそうです。


2019年01月25日

猛威

インフルエンザが猛威をふるっています。厚生労働省はきょう、全国約5000カ所の医療機関から今月14~20日に報告されたインフルエンザの患者数が、1医療機関当たり53.91人となったと発表しました。

20日までの1週間に全国の医療機関を受診した患者数は約213万人(前週比約50万人増)と推計されるそうです。

1医療機関当たりの患者数は、前の週に38.54人と、すでに「警報レベル」(30人)に達していましたが、さらに大幅に増えたことになります。

前橋市の特別養護老人ホームでは、入所者35人がインフルエンザに集団感染し、このうち80~90代の男女5人が亡くなったそうです。

入所者やスタッフは全員、昨年11月に予防接種を受けていたといいますから、関係者のかたたちのショックはより大きいことだろうと思います。

昨夜の電話では、ねえちゃは「アタマ以外は、元気!」のようす。そろそろ面会に行こうかな、とも考えていましたが、外部からの感染のリスクを考えると「猛威」がある程度収束してからにすべきだな、と延期することにしました。


harutoshura at 18:57|PermalinkComments(0)ねえちゃの近況 

2019年01月24日

「柄沢式」

きのう見た改訂長谷川式簡易知能評価スケールのほかにも、ミニメンタルステート検査(MMSE)、アルツハイマー病脳機能評価ステージ(FAST)、臨床評価尺度(CDR)などいろんなテストが利用されています。

MMSEだと、30点満点のうち24点以上は「正常」、23点以下で「認知障害あり」などと判定されます。

テスト形式でなく行動観察による認知症の評価法の一つとして、東京都老人総合研究所の柄沢昭秀氏が考案した「老人知能の臨床的判定基準」も用いられています。

行動観察は、その人の日常生活における意欲や関心、身の回りのことの処理能力などについて判断し、知的能力を総合的に評価するもの。

そのため、認知症の程度には関係なく評価できますが、評価対象者の日常生活について熟知している、家族、介護者、友人などから確かな情報を得る必要があります。

しかし、こうしたテストで異常が発見されたとしても、必ずしも認知症とは限らず、年齢とともに正常な変化の範囲で起こる認知・記憶力の低下であることもあります。

ねえちゃの場合もそうでしたが、アルツハイマー病は、医学的に完全な合意のある基準のないくらい、診断が難しい病気なのです。


2019年01月23日

「長谷川式」

アルツハイマー病かどうかは「老人斑」や「神経原線維変化」によって判断されるといっても、実際の臨床の場で、生きてる患者の脳細胞の切片を取ってきて顕微鏡で病理学的に解析して診断する、というわけにはいきません。

ねえちゃの場合もそうでしたが、やはり、まずはお医者さんの問診からはじまります。認知症にかかわる問診では、本人をよく知る家族や身近な人から情報を得ることが特に重要なようです。

問診で、記憶やその他の認知機能障害の症状が認められた場合には、確認のためにsん理学的なテストによって記憶力や判断力を調べることもあります。

長谷川

日本では現在、改訂「長谷川式簡易知能評価スケール」(HDS-R)=写真=が広く使われています。

「長谷川式」は、聖マリアンナ医科大の長谷川和夫名誉教授が1974年に考案した10分から15分程度でできる簡易検査です。

年齢、年月日や曜日、いまいるところなどを問う9の設問で構成され、正しい答が得られたときには1点、誤答やできなかったときには0点で加算した評価点(満点は30点)が20点以下の場合は認知症が疑われる、とされます。

ねえちゃも病院で何度も受けましたが、この検査、病院だけでなく、家でも簡単に試せるというメリットもあります。


2019年01月22日

中間型

アルツハイマー病には、“脳のシミ”である老人斑と“脳のゴミ”ともいえる神経原線維変化が特徴的に見られることを、きのうまで見てきました。

しかし、老人斑も、神経原線維変化も、その量などは違っても、正常な老人の脳においても見られる現象です。

たとえば、いま82歳のねえちゃの場合にしても、こうした変化は、年齢相応の生理的な老化によるものと病気による変化が重なって現れているはずなのです。

脳を病理学的に観察する際も、実際のところ、老化によるのか、病的変化なのか、どちらの原因によっているかは、はっきりしないことも少なくないそうです。

正常な老人の脳とアルツハイマー病との区別は、これらの変化の起こる場所やその量によって判断されますが、実際は典型的なアルツハイマー病の病変をもつものだけでなく「中間型」もかなりあることがわかっています。

すなわち、「老人斑は多いけれども神経原線維変化は少ない」「海馬の周辺では老人斑や神経原線維変化が多いが大脳皮質では正常の脳と区別がつきにくい」といったケースも少なくないのです。

アルツハイマーの時代とは違い、近年は、アルツハイマー病は脳の老化と密接に関係した病気と考えられています。中には、脳の老化が何らかの原因で促進されたために起こるのがアルツハイマー病であるとみる専門家もいるそうです。


2019年01月21日

神経原線維変化

“脳のシミ”である老人斑とともに、アルツハイマー病患者に特徴的に見られるものに
神経原線維変化があります。

これはもともと、アルツハイマーがこの病気を最初に論文にしたとき図示されたもので「アルツハイマー神経原線維変化」と名前がついていましたが、神経細胞が死んでいく他の病気にも見られることから単に「神経原線維変化」と呼ばれるようになったそうです。

神経原線維変化を作っている主要な成分はタウというたんぱく質です。タウは細胞の中、とりわけ神経細胞間の情報伝達のために細長く伸びた突起の中で重要な役目を果たしています。

そのタウが、神経細胞の中に異常な繊維を作って蓄積するのです。神経原線維変化を作るタウは、正常なものに比べてリン酸がたくさん結合していることが知られています。

この異常なリン酸化によってタウが正常な機能を失い、細胞の中で繊維性の塊を作ってしまうのが原因ではないかと見られているそうです。

簡単にいえば、神経原線維変化というのは、古くなった繊維状のたんぱく質が掃除されずに細胞内に溜まってかたまった、いわば“脳のゴミ”のようなもの、ということになります。


2019年01月20日

老人斑

アルツハイマー病患者の脳の組織には、脳の“シミ”とも呼べる「老人斑」=写真=が見られます。

老人斑はいくつかのたんぱく質のカスの塊が沈着したものですが、主成分はβアミロイドと呼ばれるアミノ酸40個前後からなるたんぱく質であることが分かっています。

老人斑
*新潟大学脳研究所のサイトから

さらに、このたんぱく質には神経細胞を殺す神経毒性があることも分かり、アルツハイマー病の原因物質として注目されるようになりました。

老人斑は、その名の通り、正常な老人の脳でも老化とともに増えてくることが多いのですが、アルツハイマー病の患者の脳内では異常なほど大量の老人斑の沈着が起こり、神経細胞死が急速に広がるそうです。

また、βアミロイドは21番目の染色体上にある遺伝子から作られ、特殊な早発性家族型アルツハイマー病では、この遺伝子の突然変異が知られているとか。

老人斑は、アルツハイマー病の脳内で最も早くから見られる特徴的な現象で、その数や分布の差が、病理診断の基準にもなっているのです。


2019年01月19日

シナプス

アルツハイマー病の中核症状である記憶力や判断力が低下する原因として、シナプスの減少があげられています。このシナプスが、脳の機能を考えるうえで非常に大きな意味を持っているようです。

シナプスは、ニューロン(神経細胞)とニューロンとの接合部のこと。ニューロンの神経線維の末端は、ほかのニューロンの神経細胞体の一部に接近してシナプスを形成しています。興奮がシナプス前部線維の末端までくると、そこから化学伝達物質が放出されて膜の電位を変化させます。


シナプス

神経細胞から神経細胞へと伝わっていく電気信号は、シナプスで一度、化学物質に変換されて次の神経細胞へと伝達されています。だから神経細胞がいくら正常でも、シナプスがなければ脳はまったく機能しません。

また、記憶などの高次機能は、このシナプス部分の化学的な変化によって行われていると考えられているそうです。

シナプスは直径0.3ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)ほどと小さいうえ、1立方ミリあたり数億個と膨大にあるため、脳の中のシナプスを数えるのは極めて困難でしたが、1990年代になって、シナプスだけにあるたんぱく質の抗体を使い脳の中のシナプスの密度を定量化する方法が開発されました。

これによって、アルツハイマー病の脳とふつうの老人の脳を比較することができるようになり、記憶障害の程度と脳の大脳皮質前頭葉のシナプス密度との間には、強い相関があることがわかって来たのです。


2019年01月18日

3回めの電話

グループホームのねえちゃからは変わらず、夜、寝る前になると毎日私のところへ電話が来ます。

きのうの夜も、午後8時半ごろ続けて2回。うとうとしてから寝て起きて1時間ほど後にまた、計3回電話がありました。

最初の2回は、ごきげんの様子。「いままでみんなとテレビ観てたの」「お向いさんの部屋に行ってたら、お前に電話したの忘れちゃった」。

しかし、3回目は、かなり落ち込んだ声で「おばあさん、帰らなきゃ。どうしたらいいの」と言います。

いつものことですが、「いったん眠ったら起きなきゃいいのに」といつものように思います。

グループホームから送ってもらった生活記録の通信欄にも、時々、自宅~入所までの経緯を忘れてしまい「どうしてこちらでお世話になってるんでしたっけ?」などの発言がある、と毎月のように書かれています。

いまのところ、ねえちゃに説明すると穏やかに応じて納得します、症状が進むにつれて少しずつ変わっていくのだろうな、と少しドキドキしながら眺めています。


harutoshura at 22:19|PermalinkComments(0)ねえちゃの近況 

2019年01月17日

大脳新皮質

アルツハイマー病で亡くなった人の脳で最初に目立つのは、脳が小さくなり、最も小さい場合には正常の60%にまでなっていることがあげられます。

これは、神経細胞が死んで脱落することが原因と考えれています。普通の老化でも、神経細胞は年を取るごとに減っていきますが、アルツハイマー病には減る部位に特徴があります。

アルツハイマーの脳を詳しく調べた米国の研究者の報告では、神経細胞の数が減っているのは主に①大脳新皮質のうちの記憶や思考に関連している部分②記憶に重要な働きをしている海馬とその周辺、だったそうです。

大脳新皮質というのは、大脳の表面を占める皮質構造のうち、進化的に新しい部位。合理的・分析的な思考や言語機能をつかさどっていて、高等な生物ほど大きくなる傾向があるところです。

また、神経細胞が死ぬのよりも先に、他の神経細胞からの情報を受け取る「手」のような役割をしている樹状突起にも変性や脱落が起こっていることが分かっていますが、大脳新皮質では神経細胞同士の横の連絡に重要な層の神経細胞から出ている樹状突起で異常が著しいそうです。

アルツハイマー病には、きのう見た人間ならではの「より高次の判断をする回路」や、「人間らしさ」のもとになっているような繊細なところから壊されていく傾向がありそうです。


2019年01月16日

電光掲示板

きのう見たように、記憶は大脳皮質の神経細胞がシナプスを介して結合しあった神経細胞に蓄えられます。それが再生、活動してつくられたネットワークのつながりによって人間はいろんな判断をしているわけです。

アルツハイマー病で亡くなったかたの脳を調べると、電光掲示板で言えば発光素子にあたる神経細胞が死んでいたり、素子の間の接続部分にあたるシナプスの数が減っていることが確認できるそうです。

「覚える」という行為をするとき重要な働きをする脳の海馬とその周辺で神経細胞の働きが、かなり初期の段階からおかしくなるといいます。

しかし、アルツハイマー病患者に起こる妄想、幻覚、徘徊などは、本人としては正しい判断をして当然の反応をしている、と確信して行っています。

掲示板

人間が考えているときには、脳の中に並んでいる膨大な数の神経細胞(ニューロン)が、電光掲示板のようにあるパターンでついたり消えたりして活動しています。

娘さんはもう結婚してはるか遠くに住んでいるのに、過去にインプットされたパターンが頭の中にちゃんと残っていて、「暗くなると、娘を迎えに行かなければと出かけてしまう」といった行動に出てしまうのです。

正常の人だと「ああ、それは昔のことだったな」という見当識の判断パターンも働いて行動を抑制します。しかし、アルツハイマー病が進むと「昔のことか今のことか」を判断するようなより高次の判断をする回路が切れてしまうことが、しばしば起こってしまうようです。


2019年01月15日

記憶のしくみ

アルツハイマー病になると、記憶に障害が生じます。では「記憶する」とき、脳の中では、いったいどういうことが起こっているのでしょう。

そもそも、記憶したり考えたりといったことは、神経細胞(ニューロン)を通して行なわれています。

脳内には約1000億個ともいわれる神経細胞があります。神経細胞には、細胞体の周りにある短いヒゲの樹状突起と、細胞体からのびた長いヒゲ、軸索があります。

軸索は長いものだと数十センチもあって、別のニューロンの樹状突起とつながっていて、複雑なネットワークをかたち作っています。

シナプス

ものを覚えて記憶するなど脳を使っていると、神経細胞のネットワークが太くなったり、新たに形成されたり、機能を高めたりします。

記憶の正体は、このネットワークということになります。ネットワーク間の伝達は「信号」が担っています。

軸索と樹状突起が接続したところには、シナプスと呼ばれるすき間があって、つながってはいません。

神経細胞から電気信号がシナプスまで達すると、前の細胞から神経伝達物質と呼ばれる化学物質が放出されて、次の細胞の表面にあるレセプター(受容体)という受け手にキャッチされて電位が発生。その量が一定以上になると電気が発生し、信号が伝わっていくのです。